官民ファンドの東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は、17年にクリュートに出資し、その後も追加投資した。同社パートナーの河原三紀郎が投資した理由とは。
河原:実は、クリュートは東大IPCの直接投資先の第1号なんです。投資の主なポイントは、ハードウェアかつ医療の領域だったこと。お金も時間もかかるので、一般的にVCがあまりやりたがらない領域ですが、我々は官民ファンドとして、こうした案件に資金供給してリターンも生み出すことが使命です。また私自身、キャピタリストになる以前は、大手製造業やバイオスタートアップで経験を積んできたので、自分ならクリュートの成長に貢献できると思いました。
江口:東大IPCはファンド期間が15年ですから、長期支援いただけることはすごくありがたかったです。
河原:感覚的ですが、江口さんと最初にお話をしたときに、製造業と医療のビジネスをちゃんとわかっている方だなと思ったんです。医療業界はコンサバな傾向があって、KoL(キーオピニオンリーダー)の医師やその周辺の先生たちが評価しないと、製品をつくってもなかなか浸透していかない。その難しさを理解していることは重要です。
江口:ただ、当時販売していた製品は伸び悩んでいたんですよね。ヘッドマウント型の視野計だったのですが、実際の医療現場で使ってもらうと、頭にかぶってからの細かい位置合わせが難しくて扱いづらいという課題が出てきたタイミングでした。
河原:ほかの投資先にもよく言っているのですが、ハードウェアのプロダクトは大体の場合、3回かけて仕上がっていきます。1回目で世間にもまれて、2回目にグンと成功確率が上がり、3回目に完璧になっていく感覚。クリュートに初回投資したのは、まさに世間の荒波をどっぷりとかぶっていたタイミングでした。取締役会では、売り上げを伸ばすために、マーケティングや営業の面でのテコ入れも議論されていましたが、私は心配していなかった。もう一度、チャレンジすれば成功確率が上がると確信していましたから。
江口:結果的に、河原さんをはじめ、株主のみなさんが温かく見守ってくれたおかげでより良い製品にすることができました。今の主力である「アイモ vifa」は、機械をのぞき込むだけで検査が始められる仕様にしたことで、導入先のスタッフの方にも、患者さんにも受け入れられています。