同製品は、従来の補聴器や集音器と一線を画すファッショナブルなデザインで、独自開発のサウンドアルゴリズムを搭載したスマートフォンアプリによって、従来は専門家によるサポートが必要だった聞こえ具合の調整を、ユーザー自身が自在に行える。一括購入に加え、サブスクリプション型で利用できる利点もあり、19年の発売から現在までにシリーズ累計で約10万台を販売している。
ディープテック特化型V CであるBeyond Next Venturesの橋爪克弥は、21年4月にOlive Unionが行ったシリーズBの資金調達で投資を実施。その理由とは。
橋爪:僕はヘルスケア分野を中心に投資していて、身近な人たちをより健康にして幸せにしたいというのが根っこにあるモチベーション。難聴は、加齢に伴い多くの人たちが発症するという意味で、ごく身近な病気です。
耳が聞こえづらいと、人としゃべることが億劫になって、認知症などの疾患につながってしまうこともある。視力が弱い人のほとんどは自然にメガネを買いますが、耳が聞こえづらい人で補聴器を使っているのは、国内ではわずか十数%しかいなくて、大きなポテンシャルがあると思いました。
オーウェン:きっかけは、大学院に通っていた当時、ニューヨークに住んでいた叔父の家を訪れて、ゴミ箱に捨てられている補聴器を見つけたこと。彼は難聴を患っていて、家族が高価な補聴器を購入したのですが、使い心地やデザインを理由にすぐ使用をやめたということでした。
その補聴器を分解してみたところ、改修の余地が大きいことがわかり、自分で製品を開発してみることにしたんです。完成した製品をアメリカのクラウドファンディングに出品したところ、1カ月で約1億円の資金が集まりました。そこで需要は大きいと確信し、このビジネスに人生をかけようと起業したのです。
橋爪:僕は、おしなべて平均点以上のことができるタイプの経営者よりも、とんがったクレイジーさをもつ人物を重視しています。オーウェンは確固たる信念をもっていて、日本に拠点を移して活動している点で異端な起業家。すごくいいと率直に感じました。投資したくなる起業家って、プレゼンテーションを聞くと、映画を見たような感覚に包まれるんですよね。オーウェンの話は、まさに世の中が大きく変わる未来を感じさせてくれるものでした。
オーウェン:もともと韓国で会社を設立したのですが、アメリカで開催される家電・デジタル技術の見本市「CES」に出店したところ、たくさんの日本人の方がブースに訪れてくれて。調べてみると、日本は高齢者の数が爆発的に増えていく一方で、補聴器の普及率が圧倒的に低い。また、CESをきっかけに日本の投資家からもお話をいただくようになり、強いご縁を感じて拠点を移した経緯があります。