21世紀に世界遺産となったイタリアの「単なる田園風景」の価値

オルチャ渓谷の農業景観(c)植田曉

ユネスコに登録されている日本の世界遺産といえば、歴史的建築、社寺、古代遺産が中心で、自然遺産にしても離島や特徴ある山地など、顕著な特徴をもつ自然環境のある地域です。「単なる田園風景」というオルチャ渓谷のようなテリトーリオが21世紀の文化的景観として「選び取られた」というは、たしかに画期的なことでしたね。
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人々の生活を大切にする活動および観光を通じて歴史と自然環境を守っていくという仕掛けは、日本でも民間の動きのなかで目立つようになっています。雪国観光圏の活動、山形の「スイデンテラス」などはすでに広く知られておりますが、新しいところでは、昨年秋に富山・砺波平野に広がる散居村のなかに作られた上質なアートホテル「楽土庵」もそうです。

プロデューサーは長年アート界で働いていらっしゃる林口砂里さんという方ですが、500年受け継がれた散居村の風景を次世代へ継承していくという目的を掲げ、宿泊費の一部は地元の農業や散居村の保全に還元されるようになっています。

散居村にあるアートホテル「楽土庵」(撮影=中野香織)散居村にあるアートホテル「楽土庵」(撮影=中野香織)
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オープン直前に訪れましたが、この地に伝わる「土徳(どとく)」という言葉がしっくりとおさまる場所でした。土徳とは、人と自然がともにつくりあう品格を表す言葉です。

林口さんは、楽土庵で体験できる農村の景観、伝統建築、食、工芸、アートすべてに土徳があらわれると考え、それを現代的な感覚でプロデュースしています。富山育ちの私からみれば、景観は「なんでもない田んぼの風景」なのですが、今時、ぼんやりしていたらあっというまに資本に暴力的に買われ埋め立てられチェーン店が立ちならび、日本各地に同じように広がる郊外の殺伐とした風景になってしまいかねません。

人と自然とのコラボという考え方に立ち、「なんでもない田んぼの風景」こそ貴重という視点をもちこみ、自分たちがこれを次世代へ伝えていくのだという自覚をもった活動は、実に「新・ラグジュアリー」的アプローチだと受け止めました。



富山つながりでいえば、新湊市内川でも「日常の」景観保全が進行中です。内川はもともと漁師町だったのですが、ここに東京のまちづくりコンサルタント会社で働いていた経験をもつ明石博之・あおいさんご夫妻(あおいさんの実家は富山)が2010年に移住し、「六角堂」という古民家カフェや古民家オフィスを作ったのです。

その後、一軒一軒の空き家が借りられたり買われたりしてゲストハウスになり、バーになり……という変化がじわじわ広がり、日々の町の暮らしそのままが観光資源として書き換えられています。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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