老舗繊維商社、瀬戸内に「循環」テーマにした拠点。その狙いは?

IDEAS FOR GOOD編集部が訪れた日は、キメコミアート作家イワミズアサコさんによる廃棄・余剰資材を活用したアートワークショップが開催されていた。たくさんの子どもたちや大人が夢中になって参加しているのが印象的だった。このワークショップの参加券は、いらなくなった古着を持ち込むことだ。お金ではなく資源循環への協力を参加チケットとする点もユニークだ。

イワミズアサコさんによるワークショップの様子

中さん「名前には『CIRCULAR(サーキュラー)』と入っていますが、サステナブルやエコが好きな方だけをターゲットにするのではなく、そうしたことを知らなくても楽しい、面白いと感じていただける場所を意識して作っているので、気軽に家族などで遊びに来てほしいなと思いますね」

食べたい人、買いたい人、作りたい人、つながりたい人。循環型ライフスタイルへの興味の有無に関わらず、それぞれが思い思いに時間を過ごし、楽しめるのがAJI CIRCULAR PARKの魅力なのだ。

半島や島は、効率の外にある。だからこそ、やる意味がある

中さんが庵治という場所で「サーキュラーエコノミー」をコンセプトとする拠点を始めた裏には、もう一つの思いもある。

高松市から突き出た半島部にある庵治町から瀬戸内海を挟んですぐ左上には、かつて90年にもわたる国策の中で強制隔離されたハンセン病患者を受け入れてきた大島、さらにその上には日本最大級の産廃不法投棄事件の現場となった豊島(てしま)がある。こうした歴史を背負う場所だからこそ、サーキュラーエコノミーへの移行を発信する意義があるというのだ。

中さん「庵治町は半島ですし、大島も豊島もそうなのですが、半島や島という場所は常に『効率』からはみ出る場所であり、結局はそうした場所に『効率』の負の部分が持ち込まれるのです。だからこそ、この庵治で循環をやる意味があるのかなと思います」

効率的なシステムを作ろうとすると、型に合わない人や処理が大変な廃棄物などはシステムの外に弾かれる。そうした負の外部性を背負って来たのが、半島や島の歴史なのだ。一方で、そうした負を「外部」に押し付けきれなくなり、それらが気候変動や格差といった様々な問題として表面化する中で、外部性を内部化する新たなシステムとしてのサーキュラーエコノミーが求められているのが現代だ。

香川県・豊島の産廃不法投棄現場

そう考えると、新たな循環型経済・社会システムへの移行を目指して庵治町に誕生したAJI CIRCULAR PARKというスポットは、歴史の転換を象徴する場所としても大きな意味を持つ。

中さん「効率に外れたところにあるからこそ、現代の流れにはない空気や生き方が残っているのかなという気もしています。効率を考えれば、庵治の集落で暮らすよりも街中に出たほうが絶対に便利です。コンビニも一つしかなくて、食事するところもほとんどない。それでもみんな庵治で暮らしているということは、効率や資本主義の流れではないところに身を置きたいのかなという気もしますし、そちらのほうが心地よいのかなと。資本主義から少し外れたところに、本来の人間の営みに戻れる場所や空気、感覚があり、その一つが庵治なのではないかなと思います」

「また、大島も豊島も本当に綺麗で、そういう場所ほど美しいのです。そうした場所が『負』を背負うのは何でなんだろうと思います。美しいものは経済の真ん中から外れたところに存在しているのかなと思いますね」
次ページ > 地域の循環を突き詰めると、地域らしさが出てくる

文=IDEAS FOR GOOD Editorial Team

ForbesBrandVoice

人気記事