老舗繊維商社、瀬戸内に「循環」テーマにした拠点。その狙いは?

モノも情報も溢れる時代に、何を「つなぐ」のか?

瀬戸内海のマイクロプラスチックごみの現状を知り、自社としての取り組みを模索する中でサーキュラーエコノミーの概念に出会った中さんは、なぜこれまでのような商社やモノづくりではなく、AJI CIRCULAR PARKのような場づくりを始めるという発想に至ったのだろうか。

中さん「もともと中商事の始まりは問屋なのですが、モノが不足している時代にはいかに商社が間に入り、モノや情報を効率よく流していけるかが地域の繁栄において重要であり、それが私たちの仕事でもありました。しかし、モノが余り、情報も簡単に手に入るようになってくると、今まで私たちがやってきた問屋としての役割はあまり意味がなくなり、私が会社を引き継いだときは業績も厳しい状態でした」

「その後、次の成長を考えるなかで、中商事はこれまでも何かを『つなぐ』ことで世の中を良くしてきたのだから、そうした先々代である祖父の時代からの会社としての役割や価値を引き継いでいきたいという思いがありました。ただ、昔はモノや情報をつないできたのですが、今はつなぐものが変わってきたのかなと思います。ある意味、今やろうとしていることは、地域を成長させ、地域をよりよくするために中商事が昔からやってきたことを、形を変えてやろうとしているだけなのかもしれません」

AJI CIRCULAR PARK。オープン前の様子

拡大と成長を追求し続けた結果、モノも情報も、そしてゴミも溢れてしまった現代。私たちは、便利さと引き換えに多くのものを失った。それは、リアルな空間や時間の共有を通じてしか得られない人と人とのつながりや、生産者と消費者のつながり、そうしたつながりの中で大切に守られてきた地域文化や自然環境だ。

AJI CIRCULAR PARKは、モノが溢れた反動として大量に発生したゴミや地域に眠る未利用資源、古着の交換会やワークショップといった体験を媒介とし、人と人や生産者と消費者、人間と自然など、いつの間にか分断されてしまった様々なつながりを取り戻そうとしている。

中さん「循環は、一人や一社で実現できるものではありません。つながる場所が必要です。また、子どもたちにこの美しい瀬戸内海を残していくためには、直線型の経済ではなく循環する経済の仕組みを作らなければいけません。だからこそ、AJI CIRCULAR PARKをつくったのです」

実際に、地域の中で資源を循環させようと思えば人と人とのつながりは欠かせない。違うモノサシや好みを持つ人同士が集まれば、誰かのゴミが誰かの資源として価値を見出される可能性も高まっていく。そして、そうした経験が人々に新たな創造性を呼び起こし、さらなる循環のエンジンとなっていく。よりよい社会や地域を創っていく上で今足りていないのは、こうしたつながりなのだ。
次ページ > 子どもも大人も楽しめる場所に

文=IDEAS FOR GOOD Editorial Team

ForbesBrandVoice

人気記事