ビジネス

2023.01.03

日本電産を退社した片山幹雄の初告白。日本が勝つためのヒト・モノ・カネ

片山幹雄


日本が世界で勝つための条件(4)──カネ 企業の脱皮ができるリーダーとは


私は液晶事業を通じて、アップルのティム・クック現社長、ジェフ・ウィリアムズ副社長とは長い付き合いでした。ある日、アップル本社の会議に参加して驚いたことがあります。競合のモトローラの女性が座っていたのです。彼女はモトローラの購買担当責任者であり、私はよく知っていました。

「なぜあなたがここに?」と聞くと、「アップルに請われて移った」と言う。日本では同業他社への移籍は批判されますが、自由競争のプロの世界では当たり前。グローバル競争をしている製薬業界が顕著で、グラクソ・スミスクラインのCEOだったクリストフ・ウェバー氏はいま、現在、武田薬品工業のCEOに就任しています。

スティーブ・ジョブズと永守さんに共通するのは、とにかく毎日人に会って、スカウトをしていること。もちろん外部人材を入れたからといって、そう簡単に成功しません。しかし、会社の最大の資産は「ヒト」です。生き延びるために毎日やり続けるのです。

日本企業は生え抜き社員を社長にする傾向が強く、それは利点もありますが、世界の環境変化に合わせて企業を変身させるのは難しい。変身には、外部の視点をもった人のほうが最適です。

例外があります。ソニーの出井伸之さんです。「このままではソニーは恐竜と同じ運命をたどる」、と社長になる前から建白書をつくり、社長就任後に製造業との決別を宣言します。それが「デジタル・ドリーム・キッズ」ですが、ソニー低迷の元凶だと厳しく批判され続けました。ご存じの通り、いまでは先見の明として再評価され、現在のソニーの変革と成功は出井さんに原点があることは周知の通りです。

専業メーカーが強いと先に述べましたが、イノベーションの波は世界で一世風靡(ふうび)していた専業企業ものみ込んでいきます。携帯のモトローラ、PCのコンパック、カメラのコダックなどです。かたや、時代に順応する企業があります。脱皮できるリーダーをもった会社です。

PCのデルは世界最大の販売台数を誇り、創業者のマイケル・デルは一時引退しますが、その後、急激に会社が低迷。デルは社長に戻り、株式を非公開化します。そして企業向けテクノロジー分野でシェアを蓄積し、デル・テクノロジーズとして再上場しました。マイクロソフトも2000年代に低迷すると、サティア・ナデラが社長就任後、クラウドの会社として時価総額世界一に返り咲きます。

時代環境に順応するには会社の脱皮が必要で、生物の脱皮同様、一度は体が小さくなります。この苦しみを乗り越えないと、次の成長はないのです。日本メーカーが次々とPCから撤退し、IBMは中国のレノボに売却しました。PC事業の分離はネガティブにとらえられがちですが、脱皮するためには正しい判断です。

一方で、イノベーションがないといわれていた自動車や航空など「移動」の産業に、EV、自動運転、ドローン、eVTOL(空飛ぶクルマ)などで中国企業がはやいスピードで台頭しています。そんななかで、トヨタはイノベーションの波を熟知した経営をしていると思いました。「乗り心地」や「感性」など、機能より共感を全面に打ち出している。

スティーブ・ジョブズと同じです。彼は「アップルはかっこいい」という先入観を徹底的に植え付ける商品設計をしていきました。イノベーションの波に襲われたとき、商品の価値は一瞬にして消えます。

しかし、感性というオリジナリティは機能とは別領域。例えて言うと、江戸時代から続く伝統の和菓子とかお酒の世界です。



電子機器類は通信技術の規格変更や半導体の性能向上といったイノベーションの影響を受けやすく、企業の移り変わりが激しい分野だ。特に日本企業は総合電機メーカーが多く、液晶だけ、パソコンだけといった資本投下先の集約をしなかったため、その製品の供給規模で他国に追いつけずシェアを取って代わられてしまった。一方で中国や韓国は大規模な資本投下や国レベルでの企業の集約を行い世界でのシェアを伸ばしていった。(グラフはIDC、Gartner、NPDディスプレイサーチの資料を基に作成)
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文=藤吉雅春 写真=浅田 創

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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