ビジネス

2023.01.03

日本電産を退社した片山幹雄の初告白。日本が勝つためのヒト・モノ・カネ

片山幹雄


日本が世界で勝つための条件(5)──カネ 「先行逃げ切り型」がすべてではない


イノベーションの波を前提としたとき、私は「後から参入したほうが楽ですよ」と言っています。

液晶テレビに限らず、人工衛星も北朝鮮のミサイルも、先に巨額投資をして半導体を開発した国があったから、時間もコストもかけずにキャッチアップできている。最新の設備、設計、材料、市場マーケティング、人材は先行者がつくっているから失敗の確率は減り、一気に規模拡大ができます。

イノベーションの波は製造業だけが影響を受けるわけではありません。コンピュータと通信速度の変化で物流も小売りもサービス業も変わり、企業構造は変化せざるをえなくなっています。加えて、エネルギー革命とAIからもたらされる新たなイノベーションの波も起きるでしょう。

それゆえに市場でシェアをとって、コモディティ化しても「先行逃げ切り」が可能だったはずが、ひっくり返されるようになりました。だから自虐的に聞こえるかもしれませんが、追従型ビジネスモデルで勝つ時代だと言っています。なぜなら日本の産業は捨てたものじゃないからです。

よく「失われた30年」と言います。しかし、それは一面的です。この30年間、アップルをはじめ世界のパソコンやスマホに、技術を供給してきたのは日本です。iPodも東芝が開発したフラッシュメモリとの出合いがなければ生まれなかった。もっと言うと、音楽を自由に持ち運ぶというソニーの発明が着想の原点です。日本が世界で最初にカーナビをつくり、それが世界の自動車のインパネを変えたのです。

日本の技術者だけが優秀だったわけではなく、事業化したのはメーカーにいる文系の人たちです。資材担当者も購買担当者も全員が「世界をこの商品で変えられる」と夢を抱いて成し遂げた。それが新興国にまねされて追い抜かれた。さらにイノベーションの波にのまれているのに、経営と組織が固定化して変化に順応できなかった。勝つための人材はすでに日本に揃っています。

あとはイノベーションの波がどこから来るかを読み取れるか。経営と産業構造の変革が問われているのです。
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文=藤吉雅春 写真=浅田 創

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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