ビジネス

2023.01.03

日本電産を退社した片山幹雄の初告白。日本が勝つためのヒト・モノ・カネ

片山幹雄


日本が世界で勝つための条件(2)──カネ 勝てない相手に対する「勝ち方」


液晶テレビの投資には2種類あり、生産工場と販売網です。工場はアッセンブリなので投資額はそう大きくありません。巨額投資が必要なのは販売網の構築と販促のための広告宣伝です。宣伝に投資をしないと、消費者に認知されません。ブランドイメージがなければ、低価格でしか売れなくなります。

私が社長になったころ、サムスンが巨額の販促費(年間1兆円規模)を使っているのはわかっていました。私たちは米MLBのスポンサーでしたが、サムスンは五輪とFIFAの両方のスポンサーに就任しました。私が「もう無理だ」と思ったのが欧州市場でした。

欧州展開のためにポーランドには巨大な工場をつくりました。世界中の材料メーカー・部品メーカーが集まり工業団地を形成し、レフ・カチンスキ大統領が祝辞を述べに訪問されました。しかし、失敗したのは、サムスンがロシアと契約してシベリア鉄道を私たちより先に押さえたことです。

主要部品である液晶やパネルは日本で製造していて、船舶で喜望峰やスエズ運河を通って輸送すると1カ月近くかかる。シベリア鉄道は7日間です。つまり、1カ月間、船上で在庫になる。その間、売価が下がったり、注文が減ったりする。競争相手が少ないうちは、日本の自動車も家電も船舶で主要部品を運び現地で組み立てても支障はなかった。ところがライバルが登場し、地理が足かせとなったのです。

国を挙げての総力戦でやってくるサムスンと世界中で一騎打ちをしていたら、我々が破綻します。勝負には「勝てる相手」と「勝てない相手」がいます。だから、「勝ち方」を変えて、サムスンに勝てる場所を絞りました。

まず、液晶テレビは日本です。次に中国の販売網を強化して日中両国でシェア1位になりました。アメリカでサムスンと全面戦争するのは避けたく、戦い方を変えました。サムスンは32型など低価格で数字を取っていたから、シャープはメキシコに組立工場をつくり、60~70型の大型テレビで勝ちにいきました。これは成功しました。ただ、サムスンのような巨額投資ができなかったことや物流のハンディがあったのは言い訳にすぎません。

課題を超えるにはどうしたらよいか。それが企業最大の資産である「ヒト」の問題です。
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文=藤吉雅春 写真=浅田 創

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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