日本が世界で勝つための条件(1)──カネ QCDの問題はCではなくDにある
日本企業の強みはQCDにあるといわれる。Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)だ。しかし、片山はその考え方に疑問を呈する。
日本企業については「品質はいいがコストで海外勢に負けた」と説明されることが多い。しかしそれは間違いで、デリバリーで負けているのです。顕在化している代表例が、液晶、半導体、電池です。
私がシャープの液晶事業本部長だった1990年代末から2000年代初頭のころ、こんなことがありました。他社の液晶事業部の幹部たちが「もう液晶はダメになっていきますね」と悲観して「シャープさんはいいですよね」と言うのです。当時、90年代後半からパソコン市場が一気に拡大して、液晶ディスプレイの需要が高まっていました。世界の名だたるPCメーカーが液晶を買い求めているのに日本の液晶メーカーの供給能力が追いつかない。
「シャープさんはいいですよね」と嘆くのは、当時、シャープが液晶への投資にかじを切っていたからです。
液晶は資本集約型産業で投資が必要です。しかし、日本の総合電機メーカーは多数の事業を抱え込んで展開している。液晶という一事業に大型投資ができる構造にありません。しかも、国内の競合企業の数が多い。国内の多くの液晶メーカーに投資が分散されている状態でした。
世界のメーカーは韓国や台湾を液晶や半導体の供給元としました。もともとサムスンは日本企業の競争相手ではなかった。では、なぜ世界のトップに立ったのか。理由は企業の統廃合にあります。
韓国は1997年のアジア通貨危機によりIMFの管理下となります。倒産状態となったサムスンは、IMFの指導で事業部が120から34まで整理され、選択と集中が行われます。生命保険事業で集めた資金を半導体に集中投資するなど、日本では考えられない投資が行われた結果、サムスンは半導体で世界一になりました。当時日本で液晶を担当していた人たちは、半導体のように供給ができない運命を液晶がたどると気づき始め、悲観したのです。
「QCDのコストで負ける」とは、Dの規模感をつくれないからコストで負けるのです。新たな市場を創造するには初期投資は大きいけれど、規模の拡大で固定費を抑えてコストは小さくなる。あるいは技術力でコストダウンができる。
QとCは技術で決まるのです。東芝の半導体をはじめ日本の総合電機メーカーは、優れた技術によって世界に勝ってきました。しかし、先行する企業がフォロワー企業に負ける理由は、供給能力に問題が生じたからです。
日本は国内に競合企業が多く、資本市場が脆弱(ぜいじゃく)です。さらに研究開発に時間とコストをかけて市場とエコシステムを創造しても、先行企業がコモディティ化した後も高いシェアで逃げ切るビジネスモデルは難しくなっています。後から参入したほうが投資効率はよいのです。