担当者の目 藤吉雅春 Forbes JAPAN 編集長
日本電産の後継者候補が次々と退任する報道は失敗のようにとらえられている。
しかし、片山氏の言う「イノベーションの波」という商品・サービスの短命化と社会への連鎖反応を考えると、むしろ失敗を重ねるくらいでなければ変化に耐える強い企業になれないのではないか。世界で勝負した片山氏の話だからこそ説得力があり、この経験を学んでこそ、日本の新たなプレゼンスが築けるように思えた。
「家電芸人」の意外なルーツ
シャープの法被を羽織った吉本興業所属のお笑い芸人たちが、全国各地で量販店の店員たちが驚くほど次々と商品を売っていく──。そんな現象がみられたのは10年ほど前の2012年である。
きっかけは、2011年から吉本興業が始めた「あなたの街に住みますプロジェクト」。芸人たちを出身地などの47都道府県に住まわせて「地元のために笑いで貢献」して、自力で稼いでいくというもの。吉本興業とシャープの両社は2012年に創業100年を迎えるという縁があり、当時の片山幹雄社長と吉本興業が協業を始めたのだ。
以来、片山と吉本興業の交流は続き、日本電産の退社を機に9月、片山は吉本興業所属の文化人となった。その一方で2022年4月から東京大学生産技術研究所の研究顧問に就任。自ら起業し、Kconceptを設立。企業の経営コンサルタントとして活動をしている。
片山幹雄◎1957年、岡山県生まれ。東京大学工学部金属工学科卒業後、シャープ入社。液晶事業本部長、同事業部取締役等を歴任、太陽電池や液晶の研究開発に尽力した。2007年に同社最年少の49歳で代表取締役社長に就任。14年にシャープを退社、日本電産に入社。副会長最高技術責任者(CTO)に就任。22年に日本電産を退社、Kconceptを立ち上げる。