また大学の数が多いことも理由だろう。これは日本に限らないことだが、海外へと出国する中国の人たちの最初のステップは留学であることが多いため、大学の多い首都圏をめざすのだ。
当研究会のメンバーで京都在住のグルメライター、浜井幸子さんによると「京都の二大ガチ中華地区は、京都大学や龍谷大学周辺など、どちらも中国人留学生が多い大学のそばにある」という。
それは東京も同じで、中国人留学生に人気の早稲田大学や留学生向けの予備校、日本語学校の多い高田馬場周辺に、ここ数年「ガチ中華」が急増している。今日の中国人留学生は昔のような苦学生というイメージはなく、彼らが顧客となれば店は繁盛する。
高田馬場には中国人向け予備校が多数あり、彼らは「ガチ中華」の優良顧客となっている
さらに言えることは、現代の中国の人たちは、かつての中華街のような同じ場所に集住するコミュニティを必要としていない。彼らはウィチャット(微信)をはじめとした中国のSNSによってつながるネットコミュニティの住人である。
都内区別の中国国籍の人たちの人口数をみても、確かに公団住宅やタワーマンションの多い江東区(1万5900人)がトップだが(以下、足立区、江戸川区、新宿区、板橋区と続く)、比較的各区に広く在住しているのが実態なのだ。
ここまでの認識を前提として、冒頭の問いであるコロナ禍にもかかわらず「ガチ中華」の出店が加速化した5つの理由について述べたい。
これは筆者がこの2年半、都内で「ガチ中華」を発掘しながら、オーナーや関係者へのヒアリングを通じて見えてきたことである。
まず第1の理由として、「ガチ中華」オーナーの第1世代である1980年代~1990年代の来日組が培ったここ30年間の日本での飲食業の経験の蓄積や成熟がある。
それを支えてきたのは、食材調達や調理法、店舗経営のノウハウなどを伝え合う相互扶助ネットワークである。たとえば、11月下旬都内の中華料理店で開催された「在日中国厨師精英協会(在日中国人シェフ協会)」の定例食事会では、新作メニューの発表会とそのレシピの解説が行われた。
「在日中国厨師精英協会(在日中国人シェフ協会)」の定例食事会
この定例会はコロナ禍でしばらく中断されていたが、今年10月から2カ月に1回の開催が始まった。ここでは、多くの中国系オーナーや調理人が集まり、親睦を深めるとともに、食材業者を呼んで新しい調味料や酒類を紹介したり、調理法を披露したりとお互い学び合う場となっている。
この日は、新しい麻辣調味料を使った四川料理「水煮魚(白身魚の麻辣油煮)」のレシピを紹介