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2022.12.25

コロナ禍でも「ガチ中華」の出店が加速化した5つの理由

上海で流行の蒸気で海鮮を蒸し上げる蒸気石鍋を日本で初めて提供した池袋の創作雲南料理店「食彩雲南」


第2の理由は、これまで述べてきたように、中国の外食産業の発展から学び、先行事例を日本に持ち込むことができるようになったことだ。

第3の理由は、経営のリスク分散である。新しくオープンした「ガチ中華」のオーナーに聞くとたいていそうなのだが、1つの店を複数のオーナーが共同出資するケースが多い。これだけ新しいジャンルの料理が供されたり、中国の最新の内装デザインの店が現れたりするのは、彼らがさまざまな新種の業態にチャレンジしたいからで、「やってみて、うまくいかなければ、別の店をやればいい」と臨機応変に考えているからなのだ。

第4の理由も、いかにも中国的である。コロナ禍で彼らが2010年代に手がけてきた中国人観光客向けの免税商品販売や宿泊サービスなどのインバンドビジネスが停止したことで、飲食業に転換する人たちが増えたのである。これは当時、中国人観光客に人気の大阪で特に見られたケースといえるが、東京でも同様だろう。

そして、第5の理由は、オーナーたちの時代認識とメンタリティにあると考えられる。異国に暮らす彼らは「2つの時間」を生きている。ひとつは30年間デフレ下にある「日本の時間」。そして、40年間右肩上がりで経済成長してきた「中国の時間」。日本にいながら、同時に「中国の時間」でモノを考え、使い分けられる彼らは、コロナ禍でも「ピンチはチャンス」と捉えることが可能だったのだ。


上野にある「九年食班」は1990年代のレトロチャイナ食堂。コロナ禍で帰国できない中国の若い世代の心をつかんだ

ではこれから先の「ガチ中華」の展望はどうなのか。やはり気になるのは2020年代の中国の政治経済的な変動要因だ。人やカネ、モノの流れがこれまでどおり自由に行き交うことができるのか。それは「ガチ中華」の盛衰にも影響を与えることだろう。

ただし、彼らはもともと草の根の人たちだ。常に変動の大きい社会と時代を、国を超えて生き抜いてきたところがある。「これがダメなら次の手は何か」いつも考えながら前に進もうとやってきた。いましばらくは、次に何が出てくるのか期待できそうだと筆者は感じている。

このたび筆者は東京ディープチャイナ研究会のメンバーと一緒に「東京ディープチャイナ『ガチ中華』セレクション」(産学社)という本を上梓した。東京とその近郊の「ガチ中華」が食べられる店を紹介したシンプルな案内書である。

同書では、これまで本コラムでも扱ったさまざまなジャンル別の「ガチ中華」の店が提供する料理とともに、オーナーや調理人なども紹介している。見えにくかった「ガチ中華」の輪郭や顔をわかりやすく伝えることに努めた。もしよろしければご一読いただきたい。

文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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