Forbes JAPANでは前編に続き、「脱炭素化への施策を今すぐ打たないと日本の企業はなぜ危機に陥るか」などについて、環境問題に興味を持つ中学生4名の取材班に角谷氏を囲んでの取材をしてもらった。
「取材班メンバー」は東京都内の青稜中学高等学校、下平直冬さん、杉田莉香さん、土谷萌愛さん、村田昊太朗さんの4名(いずれも中3)である。
前編>> 「牛のげっぷ」の温室効果は? 中学生が電通の専門家に聞いた『地球温暖化』の常識
国によってこんなに違う「CO2の相場」
──「カーボンプライシング」について、企業はメリット・デメリットをどのように感じているのでしょうか?
カーボンプライスは国によって違います。日本はまだまだプライスが低すぎて、世界的に見ると取引がまだ進んでいないというのが正直なところです。
たとえばEUなどはとても進んでいて、カーボン1トンあたり1~2万円で取引されている。日本ではまだまだ低く、1トンあたり500円、1000円。いわば海外の先進国と日本ではケタが違うんです。だから海外から、日本は「脱炭素後進国」と言われている。
なので政府が危機感を感じて、値付けというより「取引の本格化」を促進しようとしています。企業間の排出量取引が活性化すれば需要が高くなり、価格も上がって、海外に対してもアピールできるんじゃないか、ということですね。
ですので、質問にお答えするなら、日本企業の間ではそもそもカーボンの取引自体がまだ本格化されていない。取引していてもすごく安い。とくに今の段階では大きなメリットもデメリットも感じていない、ということになるように思います。
電通シニア・ビジネス開発ディレクター/カーボンニュートラル特命班代表 角谷浩氏が都内青稜中学高等学校を訪れた
──世界では今、地球温暖化対策で「乳製品や牛肉を食べない」動きも盛んだということです。脱炭素にはいいと思うのですが、人間の健康面でデメリットが大きいのではと思うのですが?
現在、自然由来の材料で、牛肉や牛乳と同じような代替食品や飲料の開発・販売がすでに行われていますし、人体への影響はそれほどないと思います。でも、そもそも牛が世界で15億頭も飼育されているのは、人間が自分たちのために増やした結果です。たまたま牛たちが、生きるためにメタンガスを排出しているだけですよね。
ですから、それより残り95%を「人間たちが」どうするか、という方が大切だと思いますね。しかし、「牛肉」「牛乳」が地球温暖化につながっている、というわかりやすいファクトに立脚して代替製品を開発する企業は多く出てきますね。
──ニュースでは、コロナ禍やウクライナ戦争の方がまだ、脱炭素より大きな話題です。カーボンニュートラル促進のメッセージは、今の若い人にどう伝えていけばいいと思いますか?
そうですね。世界中どの国でも、コロナやウクライナの話題の方がメディアでは大きく報道されていますよね。ただ日本の場合、われわれ国民のそもそもの意識が、海外の先進国から見るとまだ低いんです。脱炭素社会の実現というと、お金持ちの慈善活動とか、企業のCSR活動の延長みたいに思っている人がまだまだ多い。まずそこの意識を変える必要があると思います。
でも、脱炭素に関する問題が毎日、新聞の一面トップで取り上げられるというのは現実的ではない。まさに「草の根」の努力をもってしか意識は上がらない、と思っています。