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2022.11.24 18:30

なぜ「マリー・クワント展」は英国で40万人も動員できたのか?


制御工学におけるサイバネティックスの言葉を駆使して、ブランドを現代的に変革するBX(ブランド・トランスフォーメーション)の有用性を説く論文です。詳細は論文そのものをお読みいただくとして、ここではクワント展とのアナロジーで強引に読んでみます。

展覧会を「企業活動」と置き換えるならば、クワント展は、本條さんの言う「2次のブランド・マネージメント」に相当するものではと気づきました。1次と2次の違いを整理すると、次のようになるかと思います。

1次のブランド・マネージメントにおいては、展覧会側のアデンティティが不変で、最初から展覧会が鑑賞者や社会に伝えたいメッセージと内容は明確に定まっており、クローズドエンド。主催者は内容や方向性のみをディレクションするのが仕事で、鑑賞者および社会からの反応で変わることはありません。

それに対し、2次のブランド・マネージメントにおいては、展覧会側のアイデンティティは可変となります。着地点は、鑑賞者(素材提供者)からの反応で変わりうるオープンエンド。展覧会は鑑賞者(素材提供者)や社会全体と共に因果のループに巻き込まれるエコシステムの一部となり、主催者はそのエコシステム全体をデザインする必要があります。展覧会のアイデンティティは、社会的プロセスのなかで共創されます。

厳密にいえば、展覧会の構成内容が決定した時点でクローズドエンドとなるので、1.5次のブランド・マネージメントに相当するのかもしれません。ただ、ノイズもおそれず取り込み、主催者がそれに応じて自らの方向も調整していくという点で、従来の「1次のブランド・マネージメント」的展覧会とは異なる新しさを発しているのは間違いありません。


2019年にV&Aで開催された展覧会の様子(Getty Images)。日本展では、V&Aの公募で集められた写真やアイテムの多くは展示されず、図録のみに収録されている

こうした2次のブランド・マネージメントがなぜ有効なのでしょうか? 

「企業を社会的な存在にするダイナミクス」という本條さんのことばを応用すれば、「ファッションの展覧会を社会的な存在にするダイナミクス」をそこで発生させることができる、というわけです。実際、クワント展はイギリスにおいて、ファッションの展覧会としては異例の40万人を動員しています。エコシステムにとりこんだ多くの人に「自分との関り」を感じさせ、足を運ばせることに成功した、と想像するのは妥当でしょう。

本條論を強引にクワント展にひきつけて解釈しましたが、本来の本條論に戻った時、これが「新しいラグジュアリー」とどのように関わってくるのか、安西さんのご見解を伺いできれば幸いです。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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