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2022.11.04

なぜ日本ではユニコーンが育たないのだろうか

伊藤隆敏の格物致知

ユニコーン企業とは、企業価値が10億ドル(9月末の為替換算で1450億円)以上で、設立10年以内の未上場のスタートアップ企業と定義されている。米調査会社CBインサイツ の「The Complete List of Unicorn Companies」によると、2022年7月現在、世界には1194社のユニコーンが存在する。うち日本で設立されているのはわずか6社にすぎない。ユニコーンの企業数では米国(644社)と中国(173社)がダントツに多い。

なぜ日本ではユニコーンが育たないのだろうか。

第一に、最近まで、優秀な若者に大企業志向が強かったことがあげられる。伝統的に、日本の起業の多くが企業内起業であった。

第二に考えられるのは、スタートアップへ資本を提供しようとする規模の大きな投資家が日本には少ないことである。そもそも銀行システムが資本市場よりも強かった日本では、銀行からの借り入れに頼る企業が多い。スタートアップはリスクが高いが、当たれば大きなリターンが期待できる。大規模なファンドを運用して、多く(少なくとも数十社)のスタートアップに分散投資をしないと、ファンドもすぐに危機にさらされる。

第三に、日本の大学が、米国の大学とは違って、スタートアップを生むようなイノベーションのエコシステムの核とはなれなかったことがあげられる。

米国では、スタンフォード大学やMIT、ハーバード大学の周辺に、大学教授のパテントを利用する企業が多く誕生、大学院生や卒業生がスタートアップをおこしたり、就職したりするのが常態化した。そこに、ロースクールの教授が法律相談にのったり、ビジネススクールの教授がマーケティングなどの相談にのったりすることができる場も発生してきた。

このようなエコシステムが、これまで日本の大学周辺にはなかった。国立大学の先生が企業経営をしたり、商品開発に携わったりすることは、明示的、暗黙的に禁止されてきたことも影響している。

例えば米国の大学では、週1日はコンサルティングなど学外の活動が明示的に認められている。また、大学との契約は9カ月間なので、夏の3カ月は学外の活動をして収入を得ても、基本的に何の問題もない。このように、大学教授の副業を積極的に認めることも重要だ。

第四に、日本のスタートアップ起業家の志は低い(という人もいる)。企業価値が数十億円になると、東京証券取引所に新規上場(IPO)して満足してしまう、といわれている。上場することによって、さまざまな情報開示や投資家対応(IR)が必要となる。また、配当を払い始めることで資金の流出が起き、経営の自由度が狭められる。世界に打って出た日本のスタートアップは少なく、規模拡大に失敗している。

日本政府もスタートアップの育成には熱心だし、年金の積立金を運用するGPIFや大学ファンドもスタートアップへの投資を増やそうとしているが、国内ではなかなか適当な投資先が見つからないようだ。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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