レイ:それこそR/GAでデザイナーとしてバリバリ働いていた20代の頃は、「日本人のデザイナー」という意識はありました。周りも僕に対して、「日本人のデザイナー」という印象を持っていたと思います。
ただ、日本人としてのアイデンティティを前面に出さない方がいいのかな、と感じた失敗談もあります。
当時のR/GAはデザインチームが若く、いわゆるクリエイティブディレクターがいない状況。僕もまだ20代で、入社して1、2年でした。そんな頃に数名のデザイナーと30代の営業とともに、あるクライアントにプレゼンしたときのことです。
僕らとしては自信のあるプレゼンでしたが、相手の50歳ほどの白人男性は明らかに気に入らなかったようで、僕の前で聞こえるように「コイツらのレジュメを見せてくれ」と発言しました。それは間接的に、「経験もなく、英語もろくに話せない外国人が仕事しているのか」と言っているようなもので、白人至上主義的な考えがあったと思います。
僕はそのときに、自分の英語力不足と、プレゼン慣れもしていないことに気づかされました。また、経営者たちの前に出るときは、外国人であることを前面に出さない方がいいと意識するきっかけにもなりました。
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中道:日本人であることや、日本人的な視点がプラスになることはありましたか。
レイ:ものづくりにおける日本人の優位性は感じていました。それは物理的なモノだけではありません。かつて外国人の知人と、日本のデパ地下で買い物をした際、店員がパパっと手早く包装したことがありましたが、知人はそのあまりの早さときれいさに驚愕していました。
ほかにも、カンヌ国際広告祭のようなコンペティションでは、日本のデザイン性が高く評価されています。キャンペーンや広告より、デザイン部門での日本の強みは世界でも際立っていると言えますね。
一方、日本はそういった強みを完全に生かし切れていないとも感じていて、そこにはDXの遅れという課題が関係していると思います。モノ作りの強みとDXの遅れは、良くも悪くも日本人の完璧主義が影響していそうです。
中道:日本はすべてを整えてから一歩を踏み出すことが多いですよね。いざ動き出すと早いものの、動き出すまでに時間がかかるというか。特にデジタルはトライ&エラーを繰り返す世界ですから、ハンデになりやすいですね。
レイ:「石橋を叩いて渡る」慎重なカルチャーですからね。よいこともあるものの、90%の出来でリリースし、バグがあればその都度修正するような作り方ができないと、現代のように変化の早い時代では足かせになっている部分もありそうです。
中道:日本人のDNAに刻まれていることかもしれませんが、では、今後はどのように変化すべきだと考えますか。