英王室がその代表的な体現者です。2022年はエリザベス2世の在位70周年記念式典およびその後の崩御にともなう荘厳な手続きや格式高い葬儀が世界中に報道された英王室イヤーでもありましたが、旧世界の歴史遺産のような王室で守り通されてきた「元祖・旧型」の威光が、現代の英国ラグジュアリーの礎ともなっていることをあらためて見せつけられることになりました。
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実際、イギリスのラグジュアリー企業統括団体であるウォルポールは、恒例の「ウォルポール・ブック・オブ・ブリティッシュ・ラグジュアリー2022/23」において、故・エリザベス2世がイギリスのラグジュアリーの模範例であるという記事を掲載しています。「もっと女王のようになろうBe More Queen」というタイトルの記事の最後には、格言のような広告コピーのような、次のような文言が掲載されています。
「あなたが体現すること、相いれないことは何か、自覚せよ。
あなた自身について確かなこと、議論の余地なく取り換えの効かないことは何か、自覚せよ。
あなたが体現することを忘れてはいけないし、自分ではないものになろうとしてもいけない。
本物であれ。信頼に足る人であれ。個性的であれ。柔軟であれ。」
エリザベス2世が生涯をかけて体現してきたこのような態度を、ブリティッシュ・ラグジュアリーの核をなす価値として意識させる文章です。故・女王には「旧型代表」の一貫した安定感があったからこそ、反・権威としてのミニスカートやパンクも生まれ得たというところがあります。思えば、19世紀の「新型」ブランメルもそのような態度を一貫してとり続けてきました(唯一、「柔軟で」あれなかった部分が彼の致命傷となるのですが)。
21世紀の「新型」は、1990年代に発展し、暴走気味になった「旧型」に対し異議を唱えるものです。しかし、21世紀の旧型もいち早く変化して新型のよき部分を取り入れようとしています。
この「旧型」が生き残るかどうかは、その価値を体現する「人」による部分が大きいのかもしれません。翻って「新型」が影響力を拡大できるかどうかも、「人」によると信じています。取材を続けながら確信するのは、どんなに新型の要件(包摂性、透明性、ローカリティ、時空の軽やかな接続など)をクリアしていても、製品やサービスを世に出す「人」に信念や人間的な魅力のないところに明日はないだろう、ということです。
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旧型の存続であれ新型の発展であれ、ラグジュアリーは常にそれに携わる人間の内的創発にかかっているということを、エリザベス2世の崩御によって今一度かみしめています。安西さんはこうした新旧について、どのようにお考えですか?