パパ育休の先にあるかもしれない、やさしい世界
──改めて、ご自身の人生において育休を取ってよかった、と思うことはありますか?
税所:めちゃくちゃありますね。僕は育休がきっかけで人生の方向が大きく変化したので。今、会社を辞めて長野県の小布施町に引っ越し、役所で環境政策の仕事を週2〜3日やって、あとはずっと子どもたちと遊んでるんですよ。
長男が通っている「大地」という認定保育園は、親も仕事はほどほどにして子どもと一緒に遊びましょうというスタンスなんです。預けている時間は9時半〜14時半で、送り迎えも車で30分はかかる。保護者会も毎月あって朝から夕方まで。桃源郷のような大自然の中で駆け回って遊ぶ子どもたちを見ていると、働いている場合じゃないと思っちゃうんですよ(笑)。
偶然の出会いだったけど、そういう価値観を求めている自分もいて、ぴったりハマった感じです。だから、今のキャリアとか暮らす環境とか、どこかもやもやを感じているのであれば、「トランジション(移行)」するいい機会になりますよ、育休は。
中西:親世代で、一つの会社で大きな転機を迎えることなく家庭を顧みず仕事だけ何十年もやってきた男性が定年後に居場所をなくす、という話もよく聞きますよね。それでは虚しい。育休は仕事、家族、人生に対して、自分がどうしていきたいか、立ち止まって考えるいいチャンス。僕自身、育休を取る前と後では世界観ががらっと変わりました。仕事に活かせる具体的なスキルが身に付くというよりは、自分の心のセンサーの感度が高まり、社会を見る目が養われたなと。
成川:僕も育休を経て、人生観が変わりました。自分が育休によって仕事を離れてペースを落としたことで、たとえば、児童・生徒の中に発達が遅れている子や学校に来られない子がいたとしても、無理に周囲のペースに引き込もうとせず、彼らのペースを大事にしたいと思えるようになった。同じ職場で働く人たちに対しても、子育てや家庭の事情があって早退する際に、「あとは任せてください!」と快く送り出せるようになった。自分も助けてもらうこともあるし、お互いさまだと思えるようになったのは、大きな価値観の変化だなと思います。
──育児はままならなさを経験する機会にもなりますもんね。みなさんのお話を聞いて、男性の育休取得が増えたら、“マッチョな世界”が少しだけやさしくなりそうな気もしました。
中西:育児だけでなく、介護や心の病気を抱えながら働く人たちもいます。そういう目には見えにくい背景にも想いを馳せるようになりましたね。
成川:男性が育休を取得することはパートナーのキャリアを守っていくことにもつながります。女性が出産育児を機に正規雇用をはずれ、復帰が難しい現状もある。娘が生まれて、日本のジェンダーギャップも気になるようになって、このままの世界を残したくないと強く思うようになりました。妻と娘に、あらゆる人にやさしい世界をつくっていくためにも、男性の育休は必要不可欠だと思います。