ビジネス

2022.07.24

美術館の外からアートの価値を高める 山峰潤也のキュレーター論

キュレーター / NYAW代表 / 一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表の山峰潤也


──アートと他の分野の越境ということですが、アートとビジネスの関係やそのあり方はどのように考えていますか。

僕は美術館で、映像やデジタルアートなどニューメディアと呼ばれる分野を専門としてきましたが、それらはアートとして認められない時代が長かった分野です。新しいものが伝統的な領域から認められるまでに時間がかかるという面もありますが、「残すことが難しい」点が大きいです。

絵画や彫刻は数百年を超えて残していくことができるので、文化継承にも貢献するし、資産としての価値もあります。アートはそれらの分野を中心に発展してきたので、美術館もマーケットも、伝統的な芸術様式に適しています。

90年代以降、映像音響機器の普及に伴い、国際展でも映像を用いた作品が注目されてきましたが、上述の通りそれらの作品はマーケットに適しておらず、また保存も難しいので、絵画のような価格がつくことはありません。例えばビエンナーレではこれまでの価値観を揺るがす規格外のもが「面白い」と評価されるけれど、いざ市場に出ていったときに、価値の付け方がわからず、扱いに戸惑うんです。

僕は、こうした経済価値は伴わないけれど文化として意義のあるものに対して経済性をもたらす方法を考える必要があると思っています。

例えば、NFTを使って新しいアートのコミュニティを作って作品や文化財のサブコンテンツをそこで売買する、インパクト投資の技術を持ち込んで社会貢献に対する評価軸を与えるなどもその手段になるかもしれない。また、企業からの寄付を考える上でもビジネスの世界を理解していくことの重要性を痛感することが多いです。



キュレーター目線でみると、最近広まっている「ナラティブ経済学」も気になる言葉です。僕は経済もある種のレトリックによって駆動しているのではないかと思います。例えば、SDGsファンドも、今まで価値が付きづらかったものに対して、ナラティブによって社会的な価値を付与する。かつ、そこに経済性をもたらす仕組みを構築していく。

キュレーターの思考法は、まさにナラティブ構築のテクニックです。いろんなものがあたかも偶然ここに置かれているような状況にみえて、その全てを集合として見たときに、何か語りかけてくるという状況を作るのはキュレーターの技術のひとつです。物事をマージしながら新しい価値やメッセージを作り出すこのテクニックはビジネスにも応用できる気がします。

この話をすると、編集者と近いとも言われますが、結構違う気がしています。書籍や雑誌の編集においては言葉や視覚で定義していくのに対して、物質や空間を扱う僕らは、「抽象の力」、言葉にならない感覚的な作用をどれだけ信用できるか、ということが重要です。

日常は言葉に溢れていますが、芸術作品や展覧会空間におかれた「余白」が人の想像力を引き出していったり、普段と違う感覚を働かせることで人を癒したり、そういうこと多角的に感じ、考えながら作っていくのがキュレーションの世界だと思っています。
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文=堤美佳子 ポートレート=小田駿一 編集=鈴木奈央

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