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2022.07.24 18:00

美術館の外からアートの価値を高める 山峰潤也のキュレーター論


──エコシステムという言葉が出ましたが、六本木というローケーションも含め、そもそもANB Tokyoが目指したものはなんでしょうか?

宿木(やどりぎ)のような場所をつくりたかったんです。アーティストたちが創作し、それに興味を持つ人が来ることで、自然といろんな繋がりや広がりが出てくるような空間。かつて日本にも、オルタナティブな領域をあつかうスペースがあったのですが、そういうのがどんどん少なくなってきている気がしています。

ニューヨークの「PS1」(「MoMA」の別館)のように、実験的なことを受けいれる場所を作らないと、物事は更新されず、アートはどんどんコモディティ化されていってしまう。「ここでなら面白いことができるのでは」と期待できる場所にしようと思いました。

ただ、ANB Tokyoのビルは再開発に伴う取り壊しが決まっていることもあって、今年12月までの約2年間という有限プロジェクトです。そのため、自身の活動の幅を広げていくためにも4月に自分の会社「NYAW」を立ち上げました。

──ANB Tokyo は壮大な実証実験ということですね。手応えはいかがでしたか。

代表理事の香田哲朗さん(アカツキCEO)と数年前に香港のアートバーゼルでご一緒したのですが、これから伸びるアーティストが集まっている様子に、スタートアップの初期が重なって見えたんです。そこで「アートの生態系やエコシステムをどうにかしたい」と感じたのが出発点です。


2019年の香港アートバーゼル(Getty Images)

香田さんとは、アートに関心がある富裕層とアーティストをつなげる環境にしていきたいという話をしていましたが、起業家とキュレーターでお互いのスコープが違うこともあり、方向性や問題意識をインプットし合いながらやってきました。

どんなアートを取り扱うか、マネタイズをどうするか、コミュニティをどうつくるかなど、ひとつひとつの課題を相互に理解していくには時間が必要ですし、たくさんの議論を重ねました。キャリアの違う二人だったので、学びも多く、実験としてやり切った感じはあります。

──MEET YOUR ART FESTIVALでの役割やプロジェクトの特徴を教えてください。

僕はアートプロデューサーとして、展覧会のキュレーションと全体のコンセプトコピーを担当しました。

いまの社会は、ビジネスはビジネス、音楽は音楽、建築は建築、アートはアートと分野で分断されすぎていてお互いの語り合いがないんですよね。そのなかでアートがファンを増やしていくには、他と交わりながらアートに目を向けてもらう機会を作っていく。戦略的に横軸でコミュニケーションをできる場を作っていくことが重要です。

エイベックスさんがアートに関心を持ったことで、必然的に音楽や芸能と結びつくというのは大きいです。このプログラムによって、アートがもっとマスな文脈に乗り、社会におけるアートへの関心が高まればと思います。ただ、ライトなノリで広がってしまうと本質からずれてしまうので、アートに関わってきた人でも納得できる展覧会を作ることにこだわっています。
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文=堤美佳子 ポートレート=小田駿一 編集=鈴木奈央

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