2021年、デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)は、壁画アート・オフィスアートを手がけるOVER ALLsと協業し、アートを活用したスローガン浸透プログラムを開始した。
コロナ禍などにより不確実性が高まるなか、自社が「目指す姿」を描くことで自分たちが実現すべき社会のイメージを共有、さらに共通のゴールを認識することで生まれる自主性やポテンシャルを最大化することが狙いだ。DTCで執行役員を務める藤井麻野(以下、藤井)は、今回の取り組みについて次のように振り返る。
「スローガンを刷新し、社内展開をスタートさせた当時はコロナ禍まっただなか。リモートワークだったことから、通常の研修などによるスローガンの浸透は難しいのではと危惧していました。そんな折、以前当社で実施されたOVER ALLsさんのワークショップを思い出し、スローガンとアートを組み合わせたら心に響くものができるのではないかと思いました。何より、アートで表現するという発想こそが『明日への道をともに拓く』というスローガンの意味に通じることだと確信を持ちました」
「HOW」ではなく「WOW!」を引き出す
藤井のリクエストは、社内15の部門がイメージする「Lead the way」を表現した絵画を制作すること。OVER ALLs代表取締役社長の赤澤岳人(以下、赤澤)は、これを実現するためには、参加者自身が絵を描くことが必要だと考えた。「OVER ALLsのアーティストが描くだけでは『会社がイメージしている表現を受け入れなさい』というのと同じ。そうではなく、みなさんが思い描く『Lead the way』を実際に描くことで、自らが表現者になってほしいと思いました。思いを表現することで、他者や会社の表現に対して寛容になる。まずはみなさん一人ひとりが表現者であることを認識する土壌をつくることが大事だと考えました」(赤澤)
こうしてスタートしたプロジェクトには各部門のコアメンバー10~20名ほどが参加。各部門の全体会議やアンケートなどを通じた意見聴取も含め、それぞれが2~3カ月の期間をかけて全7回のプログラムに取り組んだ。
初回はまず、各メンバーが人生や仕事を通じて大事にしていることを絵に描き、お互いのパーソナルな部分について理解を深めた。2回目以降は各部門の「Lead the way」は何か、などのディスカッションを実施。その際、藤井を驚かせたのは、「部門を擬音で例えたら?」という赤澤の問いかけだった。
「『Lead the way』とは何か、と質問したところ『多様性』『地道さ』『お客様と寄り添う』といった、どこも同じような答えが返ってきました。しかしOVER ALLsが大事にしているのは『HOW(方法論)』ではなく、『WOW!(驚き)』の精神です。そこで各部門の『WOW!』を引き出すため、擬音で例えることを提案しました。『ワクワク』『メラメラ』『ギラギラ』『ガヤガヤ』など、各部門によって個性の違いがようやく見えてきたのです」(赤澤)
ディスカッションを基に、3回目以降はOVER ALLsのメンバーが毎回4~5枚のスケッチを準備。さらに議論を重ね、各部門が一丸となって絵画をつくり上げていった。こうして出来上がったのが、個性が異なる15通りの「Lead the way」だ。
例えば、重工業やエネルギー産業に関わる部門は、「脱炭素」をテーマに、グレーからグリーンの色に変わっていく世界で浮遊するクジラを重厚長大な同産業に見立て、クジラとともに街を、そして地球を変化させていく様を描いた。また、食品や消費材などを扱うコンシューマーに係る部門はバレリーナを描き、彼女を舞台へと送り出す大勢のスタッフに、クライアントと自分たちの姿を重ねて表現した。
「制作後に参加者へアンケートを取ったところ、95%が『Lead the way』に共感したと答えてくれました。また、チームビルディングにつながった、帰属意識が高まったという意見も多く見受けられました。さらに驚いたのが、アートを活用したグッズをつくりたいという意見が出たことです。社員が自発的にスローガンを広めていきたいと思ってくれたことは予想以上の収穫でした」(藤井)
赤澤は今回のプロジェクトで忘れられないエピソードを語ってくれた。
「ある部門で、所属メンバー全員で絵を描きたいという意見があがりました。スーツを着た約70人のコンサルタントが、キャンバスと絵具を手に、会議室で一斉に絵を描く。その光景を見たとき、まさに革命が起きた瞬間に立ち合えたと思いました」(赤澤)
「ビジネスをアートにする」
新たな価値観を創造
プロジェクトは23年4月に全工程を終えた。完成した15作の絵画は現在、それぞれの部門のメンバーが多く集まるオフィスに展示されている。15作ものアートを連続して制作したのは初めての経験だったという赤澤は、名残惜しそうな表情を見せた。「15部門のスケジュールを管理しながら順番に行っていきましたが、後半になるにつれて、もう一周したいなと思うぐらいプロジェクトに愛着が湧いていました。回を重ねるごとにDTCさんの社風をつかんでいけたので、もしもう一周したら最初とはまったく違った作品ができたと思います」(赤澤)
アーティストが感じ取るインスピレーションは常に変化するもの。裏を返せば、今回出来上がった作品もまた、その瞬間でしか生まれえなかったオンリーワンなのだ。
一方、プロジェクトのリーダーとして、15ものオンリーワンに立ち会った藤井は、プロジェクトの継続性にも期待を寄せる。
「『Lead the way』の中には、『カタチになるまで』というキーワードも含まれています。その意味でも、アートというカタチになるところまでスローガンをつくり上げられたことにも意義がありました。そして今後もアートを活用してほしい。例えば、お客さまなど外部の方に自分たちのストーリーを話すことで、つながるきっかけにしてもらえればと思っています」(藤井)
DTCとOVER ALLsによって生まれた「ビジネスをアートにする」という新たな価値観。それもまた「Lead the way」に秘められたひとつのアンサーなのだろう。
デロイト トーマツ コンサルティング
https://www2.deloitte.com/jp/OVER ALLs
http://www.overalls.jp「Lead the Way Forum」
2023年5月22日(月)~26日(金)までの5日間、パーパス、コミュニティ、Well-being、トランスフォーメーション、働き方、教育・キャリア、グリーントランスフォーメーションをテーマに、DTCが各界のトップランナーたちともに誇れる未来を考え、新たな価値やつながりを共創するコミュニティ・カンファレンスを開催。▼詳細は下記
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/dtc/lead-the-way-forum.html