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2023.06.02 11:00

卯城竜太(Chim↑Pom from Smappa!Group)、慎泰俊、西村真里子と考える、世界を変える「個」の力と企業に必要な「作家性」

写真左より卯城竜太、慎泰俊、西村真里子

写真左より卯城竜太、慎泰俊、西村真里子

「有楽町アートアーバニズムプログラム」、通称「YAU(ヤウ)」を運営する三菱地所とForbes JAPANとのコラボーレーションによる新たなプロジェクト「Art & Entrepreneurship Tokyo」。第3回目は、「『個』の力で世界を変える方法」をテーマにセッションが行われた。
第1回目第2回目の記事は各リンク先から)


YAUとは「有楽町アートアーバニズムプログラム」の略称で、三菱地所が実行委員会として参画する、実証的な街づくりのこと。東京・有楽町ビル10階にあるスタジオを拠点としてアーティストを呼び込み、大手町・丸の内・有楽町エリアの立地企業と協働し、アートとビジネスを掛け合わせながらイノベーションを起こしていく仕組みづくりに取り組んでいる。

第3回目はゲストとしてChim↑Pom from Smappa!Group(2022年にChim↑Pomより改名。本記事では以下、Chim↑Pomと表記)の卯城竜太(以下、卯城)、五常・アンド・カンパニーの慎 泰俊(以下、慎)、そしてモデレーターにHEART CATCHの西村真里子(以下、西村)を迎えた。

今回のテーマは「『個』の力で世界を変える方法」。ゲストの一人、卯城は2022年に出版した初の単著『活動芸術論』(イーストプレス)で自身の活動から「『個』を突き詰めると『公』の概念と同等になる」というテーゼを抽出し、「個」と「公」という概念から自分たちの活動を位置付けし直した。

もう一人のゲスト、慎は民間セクターの世界銀行をつくることを目指して、五常・アンド・カンパニーを14年に創業。現在までに5カ国で200万人弱にサービスを提供してきた。そのほか、21年に日本児童相談業務評価機関を共同設立した実績などをもつ。

コーディネーターを務めた西村は、14年に設立したハートキャッチの代表取締役であり、ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ「分野を越境するプロデューサー」として活動中だ。アーティストという立場で社会と関わる卯城と、ビジネス・金融という分野から社会にアプローチする慎を、西村がどのようにつなげ、対話を掘り下げていくのか。以下に、セッションの一部を、セッション終了後にForbes JAPANが行った個別インタビューの内容も交えてお届けする。

アートとビジネスにおける社会の仕組みを変える視点

西村:以前から卯城さんと慎さんのご活動を拝見していて、立場は異なれども、お二人とも社会の仕組みを変える視点をもっている点においては共通しているのではないかと感じていました。そして、大きなインパクトを与えるものを世界規模で発信している点でもとても似ていらっしゃるな、と。ということで、お二人からお話をお聞きできることをとても楽しみにしてきました。

西村真里子(HEART CATCH代表取締役)

西村真里子(HEART CATCH代表取締役)


 
:実はアート鑑賞が趣味で、年間50回くらい、さまざまな展示を見に行っています。ただ単純にアートが好きという理由もあるのですが、ビジネスの参考にしている部分もあります。というのも、発展途上国の仕事をしているので、現地の状況を伝えるとき、通常のビジネスパーソン的なプレゼンをしても何も前に進まないことが多くて。途上国の場所がもっている空気感を日本国内で伝えるのがとても大変なんです。

そんなとき、アートの展示がすごく参考になるんです。展示って会場のなかに異空間をつくり出していることじゃないですか。自分が発展途上国で見ているものを、日本にいる人に感じてもらうには、こうした展示のようなプレゼンテーションが非常に効果的なんですよね。

Chim↑Pomさんの展示もたくさん拝見していて、特に昨年に森美術館で行われた初の回顧展「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」は非常に刺激的でした。どういった思いで制作をしているのか気になっていたので、卯城さんのお話を直接聞けるのが嬉しいです。

慎 泰俊(五常・アンド・カンパニー共同創業者兼代表執行役)

慎 泰俊(五常・アンド・カンパニー共同創業者兼代表執行役)


卯城
:アーティストというとビジネスと縁遠いと思われることも多いのですが、これまでにはさまざまな企業や、ビジネスパーソンの方々と協働して活動を続けてきました。特にChim↑Pomの場合、公の場や他者のエリアを借りて社会的に問題提起するスタイルのプロジェクトが多いので、実行までの過程では未知の交渉が必須です。プロジェクト遂行のために、会社同様、リサーチやアイデア出し、コミュニケーション、ファンドレイジングなど色々なことをします。ただ作品のように一過性のものとして完成されるなら、持続しなきゃいけない理由もないし、それらも振り切ったエクストリームな活動になりがちですよね。

それに対して、慎さんのような活動は、持続可能であることも魅力のひとつですし、だからこそ事業として信用されているのだと思います。その辺りのことはもっとこれから具体的に勉強してみたく、今日は慎さんのお話を聞きできることが、僕もとても楽しみでした。

卯城竜太(Chim↑Pom from Smappa!Group)

卯城竜太(Chim↑Pom from Smappa!Group)


不可能を可能にする強い想いとは

西村: Chim↑Pomの展示でいうと、17年9月に台湾の国立美術館でインスタレーション「道」を実施されましたね。美術館と公道をつなぐ一本の道をつくり、そのうえでブロックパーティーなどが行われました。このときに「デモ」や「グラフィティー」や「飲食」の是非などの規定をメンバー自らが美術館と交渉して設けたのも特徴でした。

国立美術館でのインスタレーション「道」 Chim↑Pom from Smappa!Group / Photo: Evan Yelverton / Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

国立美術館でのインスタレーション「道」 Chim↑Pom from Smappa!Group / Photo: Evan Yelverton / Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production


こうした大胆なビジョンの実現にあたっては、美術館と交渉して既存のレギュレーションを変えたりするなど、いくつもの壁を越えたことと思います。なぜ、これが実現できたのだと思いますか?

卯城:まずは、何よりも大義名分ですかね。これが人類にとってどのような意味をもち、歴史的にどう位置付けられるかをきちんと言語化して伝えること。これは、アート、ビジネスに関係なくいかなる交渉相手においても話し合える内容です。むしろ、それくらいに視点を大きくしておかないと、先方が属する会社や組織の論理やリスクマネジメントがアイデアよりも優先されてしまうし、自分だって面倒くさくなる(笑)。そういう一切合切を超越したうえで話し合うことが大切だと思っています。

一方で、不可能を可能にする瞬間は、そんな傾向と対策とは無縁な場合もある。他の展示の例を挙げると、バリ島のゴミ山でプロジェクトをした際に、その上まで観光ヘリを飛ばす必要があったのですが、ヘリの会社は制空権などの問題で難色を示しました。

オフィスでダラダラと膠着状態となったときに、先方の社長が「そもそも何でそんなことをやりたいのですか?」と尋ねてきました。コンセプトなどを話してもそれはアートの問題なので、他にどんな言葉で訴えかけようかと悩んでいたときに、エリイ(※Chim↑Pomのメンバーの一人)が咄嗟に「夢だから」と答えたのが突破口となったのです。

出まかせではなく、作品をつくるとは夢を叶えるということに近く、エリイも真剣だったように思います。その言葉を聞いたときの先方の、「え! 夢…かぁ…」と意表をつかれたリアクションはいまでもはっきり覚えていますし、「夢なら、まあ、しょうがないか」と交渉のドアが突然開いた瞬間は忘れられません。

:非常に興味深いエピソードですね。ビジネスパーソンとしての視点でいうと、目的の遂行のために法律を変えなくてはいけない場面も多々あります。そんなときに大切なのは、諦めないこと。そして、恐れないこと。

僕は、日本児童相談業務評価機関を共同設立した関係でロビー活動などもしていました。そのなかで理解したのですが、ビジネス上のイノベーションと違い、制度の変更にはとても長い時間がかかります。それでも、世の中の仕組みを変えていくには、法改正が必須な場合もある。そんなときは、諦めずに続けることが極めて重要だと感じています。

また、このような変革に臨もうとすると、内外から多くの反対にあいます。それをものともせずに、信じたことを続ける力も必要です。もちろん、他にも必要なことはあります。例えば、官僚機構と議員がどういった力学で行動しているのかをきちんと理解できなかったら、いくら諦めずに続けても成果は望めないでしょう。ですが、起業家としてまず大切なのは諦めないこと、恐れないことだと思っています。

強い「個」が結集したコレクティブが世界を革新する

西村:卯城さんは19年に『公の時代』という本を出版されるなど、以前から「個」と「公」というものをすごく意識されていらっしゃいますね。今日のテーマである「『個』の力で世界を変える方法」についても、独自の視点からお話しいただけるのではないかと期待していました。

卯城:そうですね。「個」と「公」というのは僕にとって重要なテーマのひとつで、『公の時代』を出版した後も考え続けています。この流れで、昨年出版した『活動芸術論』を執筆した際にはChim↑Pomというコレクティブにおける自分という個や、逆にChim↑Pomが社会における個になる瞬間などを考察しました。というのも、「個」と「公」の関係っていうのは、僕とChim↑Pomの関係でもあるし、Chim↑Pomと日本のアート業界というふうに一歩引いて見ることもできるし、もっと言うとアートと社会の関係でもあるのかもしれない。

僕はChim↑Pomを「アーティスト集団」や「グループ」ではなく、「アーティストコレクティブ」と名乗ることにこだわってきました。昨年のドクメンタ15では、それこそ1人の作家ではなくグローバルサウスの社会的実践を行う機関やコレクティブが集合し、芸術祭自身を自律運営する試みを行っていました。コレクティブの時代などと言われるようになっているわけですが、なぜ自分たちはコレクティブなのかとあらためて考え直したんです。

集団とコレクティブのいちばんの違いは、コレクティブは「個が集まって協働する」、個の集合体や協働体だと思うんですよね。集団やグループというと、まず共通のコンセプトがあって、そこに賛同する人が集まってくる。会社はどちらかというと後者なのかな。だから、メンバーが入れ替わり立ち替わりしてもいい。

個が前提にあった場合は、衝突したりしながらどうやって一緒に働いていけるかを模索するんですね。Chim↑Pomのことで言えば、メンバーの誰一人として代替がきかない、というか。

現にChim↑Pomは共通点がほとんどない6人が集まって活動しています。強い個をもったバラバラの6人がプロジェクトを実現しようとするわけだから何かと揉めごとも多いのですが(笑)、それでも18年続いているんですよね。「個」が集団や社会という「公」性があるものに包摂されずに集まることは、揉める原因である一方で、そのコレクティブを自ら変異させながら唯一無二の個にする民主的システムでもある、と。企業でも、集団的な企業のイメージが強いですが、だんだんとコレクティブとしての企業ができてきているんじゃないかなと思っています。

Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバー。左から、水野俊紀、卯城竜太、エリイ、岡田将孝、林 靖高、稲岡 求。 / Photo: Seiha Yamaguchi / Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバー。左から、水野俊紀、卯城竜太、エリイ、岡田将孝、林 靖高、稲岡 求。 / Photo: Seiha Yamaguchi / Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production


:音楽のバンドも、コレクティブですよね。僕が最初につくったNPOも、まさにそうでした。上下関係も指揮系統もなく、強い信念をもったさまざまな専門家が集まって本業とは別に活動していた。だからいまでも続いているんだと思います。

起業家にも同じことが言えると思います。ただお金儲けが目的の人はさておき、まっとうな起業家というのは強い個や、強い信念をもっている。1960年代でいえば革命を目指していたような人たちですよね。いまの社会はおかしい、世の中を変えなくてはいけない、という強い意識をもっている。社会を変えようという力学の働かせ方が、現在は革命ではなくビジネスに変わったのかなと思っています。

アートと同じで、会社にも、作家性が高い会社と低い会社があると僕は考えています。時代精神に与える影響があるかないかの違い、と言い換えることもできるかもしれない。会社は、基本的にはサービスや物を提供してお金をもらって成り立つものです。作家性の高い会社は、それプラス、何か人々の心のありようを変容させるんですよね。創業者が生きていたときのソニーやアップルは、その代表だと僕は思う。

アクティビズム起業家と、アクティビズムアーティストは結構近いところに存在しているともともと思っていたのですが、卯城さんとお話をしているうちに、その仮説は正しかったのかな、と思いました。

西村:お二人のお話を聞いていて、現状そのものを変えていくことができるパワーを思う存分浴びることができたように思います。誰かがつくった社会や時代に違和感を感じたとき、その現状に甘んじることなく、問題意識をもち、行動していくことの大切さをあらためて感じました。本日はどうもありがとうございました。

YAU 有楽町アートアーバニズム
https://arturbanism.jp/
 

卯城 竜太(うしろ・りゅうた)◎2005年よりアーティストコレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバー。(22年4月にChim↑Pomより改名)」のメンバーとして活動。国際的に活動し、各国の国際展、ビエンナーレに参加。著書に『活動芸術論』(イーストプレス)、『芸術実行犯』、『公の時代』 (ともに朝日出版)などがある。

慎 泰俊(しん・てじゅん)◎モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2014年、民間セクターの世界銀行をつくることをめざして五常・アンド・カンパニーを共同創業。22年2月に一般財団法人五常を設立。世界経済フォーラムのYoung Global Leader 2018選出。

西村 真里子(にしむら・まりこ)◎日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート。アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年にHEART CATCH設立。20年、米・ロサンゼルスにHEART CATCH LAを設立。

Promoted by 三菱地所 / text by Ayano Yoshida / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro

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