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2022.07.24

美術館の外からアートの価値を高める 山峰潤也のキュレーター論

キュレーター / NYAW代表 / 一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表の山峰潤也


各界には、税制改革や法律整備を狙うロビイストや、発信力のあるオピニオンリーダーがいますが、日本のアート界にはそういう人がいない。このままではアートのポジションが非常に厳しくなるという危機感を切実に感じるようになりました。

今の社会では、ポピュラリティのパワーが強く、そこで合議形成ができないとパワーを失ってしまう。しかし、長い歴史の中では王侯貴族や巨大資本家といった特定少数の人たちから価値づけされてきたアートは、時に難解さも伴うため、民主化された多数決の社会と相性が悪い。この中でアートを守るロジックを開拓しなければ、その基盤が失われてしまう。

そのロジックを考えるには、美術館という一つの業界に留まっていても難しいと考え、ミュージアムの外に出ていきました。しかし、根底にはミュージアムの価値がもっと深いところで理解されてほしいという思いがあります。

──つまり、美術館を捨てて外に出たわけでなく、外側から守ろうとしているということですね。

学芸員の経験をしたことがある人でないと見えてこないミュージアムの視界があります。

例えば、ミュージアムの特徴に「長い時間軸」で考えることがあります。コレクションを持つということは、それを過去から未来に渡していくという仕事です。しかし、時代は早い効果を期待するのでどうしても“今求められるもの”に向かいます。こうした状況の中で美術館の立場は弱い。ところが、これらの課題に美術館の内側にいる職員ではアプローチできません。また、教育と同様に文化も時間をかけて育てていく必要があるというのも事実です。

いまの僕の命題は、内側と外側をブリッジするようなポジショニングを作ること。既存のミュージアム・アート関係者の信用を失わない形で、今の時代を動かすプレイヤーたちとも連携をとっていく。そのバランスを探りながらやっています。

──ANB Tokyoでの活動について教えてください。

僕のキュレーションはもともと、「言葉」が強いという特徴があります。軸となる言葉を見つけて、コンセプトやアーティストを組んでいく。言葉に求心力があると、参加するアーティスト同士の関係性が遠くても成立するんです。特に国際展だと各国のアーティストとのコミュニケーションが大変ですが、言葉に納得感があれば、若手も大御所も関係なく、同じ命題を目指す共犯関係を作っていくことができます。

しかし、ANB Tokyoでやりたかったことは全く逆です。キュレーターが水を運ぶ役に回りながら、特に若手のアーティストたちの新しいエコシステムを作るのが狙いでした。


(c)ANB Tokyo

シリーズ化している「ENCOUNTERS」という企画展の1回目では、若手キュレーターやアーティスト数名にフロア別で企画を担ってもらいました。

2回目では、約20組のアーティストを集め、それぞれに課題意識や活動、気になる他の参加アーティストが誰かなどをヒアリングしてグルーピングをしていきました。「この組み合わせではまとまらなそうだから、まとめ役を入れる」とか「大人しくなり過ぎるから起爆剤を足す」とか。予定調和ではなく、アーティスト同士のコミュニケーションが相乗効果を生むポイントを見極める感じです。

これでANB Tokyoの4つのフロアに個性的な展覧会ができるのですが、それでは分断されてしまいます。そこで、縦でつなぐオンラインライブを重ねることで、「独立しつつも混ざっている」一つのナラティブにするという手法をとりました。
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文=堤美佳子 ポートレート=小田駿一 編集=鈴木奈央

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