経産省に聞く。サーキュラーエコノミーの新たな「文脈」とは


経産省では、成長志向型の資源自律経済の確立の鍵となるモデルを下記の4類型に整理している。

資源の再利用・再資源化(1×n)
資源の生成(0→1)
資源の共有(1/n)
資源の長期利用(1+n)

「資源の再利用・再資源化(1×n)」は、設計段階からリユース・リサイクルを前提とする製品の普及や回収・選別・リサイクル技術の高度化などによる低コストかつ高水準の資源循環率の達成を目指す。

また、「資源の生成(0→1)」は、バイオものづくり技術による輸入資源に頼らないプラスチックや繊維などの高品質・低環境負荷の素材・製品の生産、「資源の共有(1/n)」は自動車や宿泊サービスなどに留まらないシェアリングエコノミーの拡大、そして「資源の長期利用(1+n)」は服飾品や住宅などのレストア、リメイク、リノベーションやセカンダリー市場の発展が想定されている。

バイオものづくり分野への投資を拡大することで、これまで輸入に依存していた資源を国内で代替できる可能性があるといった見方は、環境視点でその価値を語られることが多いサーキュラー・バイオエコノミーの分野に新たな文脈を与えている。

なお、世界情勢が急速に変化するなか、環境対策だけではなく経済安全保障や経済の強靭化の観点からもサーキュラーエコノミーへの移行を加速させようとする動きが起こっているのは、日本だけではない。

欧州では、欧州委員会が2020年3月30日にウクライナ情勢なども踏まえたうえで「持続可能な製品を規準とし、欧州の資源独立性を高めるための新提案」として、エネルギーや資源依存から脱却し、外的影響に対してより強靭なサーキュラーエコノミーへの移行を実現するべく一連の措置を提案している。

また、中国も2021年7月に資源供給の不確実性を背景として、国内の資源循環体制構築と2060年までのカーボンニュートラル実現に向けた「循環経済の発展に関する第14次5ヶ年計画(2021-2025年)」を公表した。

各国や各地域が物資や資源の自律性を高め、できる限り域内で資源循環や調達ができる環境を整えていくことは、資源移動に伴う環境負荷の低減という意味でも望ましいことだ。

一方で、こうした動きは各国の視点から見ると部分最適になるものの、世界全体としてはグローバルな経済が分断され、ブロック経済へと収斂していくリスクもあると感じるが、私たちはどのような資源循環のスケールを描いていくことが理想的なのだろうか。

羽田氏はこう話す。

「通商政策的な観点で見ると、貿易を阻害するようなルールは望ましくありません。自由なイノベーションを通じてモノが行き来する経済のほうが全体としてのレジリエンスも高いですし、開かれた経済・社会の実現にもつながると思っています。一方で、資源循環に関しては、カーボンニュートラルを念頭に置くと、適した循環の場所や大きさがあるかもしれませんし、世界情勢に鑑みると資源自律経済のあり方も考える必要が出てきています。また、それは世界のどこにファシリティや技術があるか、という点にも左右されます」

「例えば、有害廃棄物の移動を制限するバーゼル条約に日本も加盟していますが、途上国に対する廃棄物輸出には厳しい制限がある一方で、すでにインフラがある日本や先進国の間では、合理化されているところもあります。モノによって最適な循環の場所や大きさが変わってくることがあったとしても、インフラの所在を考慮に入れないと、最適なオペレーションが損なわれるという可能性はあるかもしれません。例えば、カーボンの観点では移動は短いほうがよいものの、リサイクルのインフラが弱い地域での不適切な処理が課題になっていたりするなか、責任ある形での処理・リサイクルが重要になります」

最適な資源循環のループは、物資や資源の質・量やそれを処理できる施設や技術力の問題など、様々な要因によって変わってくる。

グローバルレベルで最適なサーキュラーエコノミーを実現するためには、全ての物資や資源について域内における循環を優先させるということではなく、それぞれの実情に沿った形で一つ一つ丁寧に循環のループをデザインしていくことが重要となりそうだ。


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文=加藤佑

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