羽田氏によると、自主回収については、企業によるサーキュラーエコノミーの取り組みが始まるなかで、再生材の品質を担保したいという企業の動機が強いという。
「設計、生産時における品質保証の観点から、ポストコンシューマーの素材を何でも利用するのではなく、クローズドで回収したいというのが自主回収のひとつの原動力となっているように思います。製品側での再生材の使用基準や、再生材の市場をつくる、というのもまだまだこれからですが、市場化が進んでいく過程ではある程度素材のランク化に向けての課題も考えていく必要がありますね」
プラスチックの回収やリサイクル、再生材利用によるコストの増加を誰がどのように負担するのか、という点が大きな課題となっている中では、環境配慮設計の認定製品の公共調達による市場づくり、企業同士の連携による規模の経済による回収コストの削減、消費者への啓蒙による付加価値の訴求など、様々なアプローチを同時並行で進めていく必要があるだろう。
国際情勢の変化を踏まえた「成長志向型の資源自律経済の確立」とは?
サーキュラーエコノミーと聞くと、前述のように脱炭素やプラスチック廃棄物の削減など環境面へのインパクトに焦点が当てられがちだが、いま、世界では刻一刻と変化する国際情勢の中でもう一つの新たなコンテクストが加わろうとしている。
それが、物資や資源の供給リスクに対処する手段としてのサーキュラーエコノミーという視点だ。
2022年5月に開催された産業構造審議会総会において、経産省は「循環経済ビジョン2020」の具現化に向けた基本的な考え方として「成長志向型の資源自律経済の確立」という概念に初めて言及した。
背景には、コロナ禍やウクライナ情勢など国際情勢の急激な変化により世界的に物資や資源の供給リスクが高まっていることに加え、今後も新興国を中心に人口や資源消費量の増加が見込まれるなか、物資や資源の供給を特定の国に依存し続けることは中長期的に経済の脆弱性を高め、国際競争力の低下につながるという危機感がある。
そのため、日本においては物資や資源の完全な自立や自給は現実的ではないものの、国際的な供給途絶リスクを可能な限りコントロールし、経済の強靭化を進める。
また、そのために汎用的な工業用品や消費材も射程に含めた資源循環経済政策の再構築などにより、日本モデルの技術、制度、システムを海外展開につなげることで、他国にとっての不可欠性の確保、国際競争力の向上と持続可能な経済成長を実現する、というのがその趣旨だ。
羽田氏は、この「成長志向型の資源自律経済の確立」という概念についてこう話す。
「物資や資源の供給制約については、半導体の供給不足などは長期化しており、日常生活にも影響が出てきています。全ての物資や資源を備蓄したり、リサイクルしたりすることは難しいとしても、特定の国に依存しているような物資や資源、リサイクルの技術開発が検討可能なものについては、経済の強靭化のために資源循環経済の『高度化』を積極的に考えていくべきだと考えています。ただ、成長志向型の資源自律経済の確立に向けては、資源循環経済政策の再構築を中心に、自律性や不可欠性の観点から、より広範な物資や資源を射程に入れて政策設計を考えていく必要があると考えています」
経済安全保障を目的とする半導体やレアメタル等の一部の物資や資源の戦略的自律性や戦略的不可欠性、環境負荷低減を目的とする3Rや廃棄物対策ではカバーされない幅広い領域に対する供給リスクも踏まえたうえで、新たな資源循環経済のありかたを描く必要がある、ということだ。
具体的には、どのような領域、分野における取り組みが検討されていくのだろうか。