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2022.07.01 20:00

ウクライナを描いた映画「ドンバス」 元日本人住民が語る8年前の真実


当時は分離独立派勢力に反対する人たちも残留しており、着弾痕から迫撃砲の軌道を見極めて発射地点を特定し、それをSNSに公開する人もいました。それによれば、分離独立派のニュースで報道されていた砲撃は、なんと彼らの支配地域内から発射されていたらしいのです。

目を覆いたくなるエピソード


なかでもリアルに感じられたエピソードは「占領区地域警察による車の接収」です。車を盗まれたビジネスマンが、犯罪者から取り戻した車を警察に引き取りに行ったところ、車の接収と身代金を強要されるというものです。

当時のドンバスでは、戦乱に乗じて他人の私財を奪い、国境を越えロシアに持ち込んで売り払うという輩が跋扈していました。車の持ち主に連絡した警察は、初めから手数料をとる考えで、ただこれは侵攻以前のウクライナでも、実はよくあることでした。しかし、身代金まで要求したのは、住民の納税や資産情報が分離独立派の占領時に現れたモスクワからの情報機関によって、役所のハードディスクごと盗まれ、共有されていたからです。


ドイツ人記者を罵るコサック兵。勇猛で知られるコサック兵はドンバス地方にも多く、親ロシア派として重要な役割を果たしている(C)MA.JA.DE FICTION / ARTHOUSE TRAFFIC / JBA PRODUCTION / GRANIET FILM / DIGITAL CUBE

このエピソードはウクライナの現状もよく伝えています。金持ちはいい車を持っているから盗難の対象になる。身分証から情報を引き出し、金持ちとわかると、警察は「新政権への委託(無償提供)」という名目で車を強奪し、「身の安全」と引き換えに身代金まで要求、支払うまで身柄を拘禁するのです。その身代金は警察内部への上納や賄賂に使われます。

「ウクライナ兵捕虜への集団リンチ」は、目を覆いたくなるようなエピソードでした。男性捕虜が街頭でさらし者になって、通りがかりの老若男女の市民からリンチを受けるというものです。

分離独立派支配地域の住民や兵士が、敵対するウクライナ人に対して投げかける「ファシスト」という言葉は、宣伝工作によって少しずつ浸透を始めます。ウクライナ人の捕虜が目の前に現れることで、占領下の生活困窮のストレスも加わって、「実際に戦闘に参加していないはずの若者」や「(自分たちは)ウクライナに迫害されていると信ずる主婦」、「旧ソ連生まれの老人」などが次々と現れ、捕虜を罵倒し、殴りつけるのです。
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文=中村正人 写真提供=サニーフィルム

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