その“鉄の意志”が、スポティファイを金鉱に化けさせた。音楽企業は現在、過去最高値に近い株価で取引されている。ワーナー・ミュージック・グループの株価はこの1年で50%上昇しており、時価総額は200億ドルになっている。巨大メディア企業のビベンディから独立したユニバーサルの評価額は500億ドル近い。何より衝撃的なのは、アップル、アルファベット、そしてアマゾンという、数兆ドル規模の巨大企業3社が競合商品を投入した後も、スポティファイが首位に立ち続けていることだ。
「(00年代初頭の)アップルの大復活の中心となったのは『iPod』だった。彼らは音楽を軸にブランド全体を構築した」と、パーカーは言う。
「何十億台ものiPhoneやマックに標準搭載されたiTunesを相手にスポティファイが生き残れると考えた人は、ほとんどいませんでした」
もちろん、アップル・ミュージックはこの分野で有力な勢力であり、20年の有料顧客数は推定7000万人だ。しかし、スポティファイの有料顧客1億7000万人に大きく水をあけられている。それにアップルとアマゾンは、無料の広告付き配信サービスの選択肢を提供していない。その点、スポティファイは提供しており、それによってさらに2億2000万人の利用者を呼び込んでいる。
「以前は広告付きで無料配信される音楽は、ユーザーを有料購読に引き込むための誘い水に過ぎなかった」と、メディア調査会社ライトシェッド・パートナーズのリチャード・グリーンフィールドは話す。
「それがいまでは、それ単体で一大ビジネスになっており、スポティファイには競合がいない状況です」
スポティファイが他社に先んじることができたのは、使いやすく、どこでも音楽を再生できる製品と、40億以上あるシェア可能な再生リスト、そして顧客がダウンロードよりも海賊版よりも好む配信モデルを最初に提供したためだ。定着率が高いことも証明されている。一度ライブラリーを作成してしまえば、リスナーがほかのサービスに乗り換える動機がほとんどなくなってしまうのである。
とはいえ、スポティファイの株価は低迷してきた。それに、これまで一度も年間黒字を達成していない。20年、同社の損失は前年比3倍の7億1300万ドルになった。だが、エクがそれを気にする様子はない。
「利益を上げていないのは、投資し続けているからです。私たちは成長し続けたい。トンネルの先には、とびきりのご褒美が待っていますから」
耳を求めて世界進出
2016年9月、満を持して日本へ上陸したスポティファイ。若年層を中心に定着しつつある。21年末の同社の発表によると、21年に再生回数が最も多かったミュージシャンは韓国のBTS、最も聴かれた楽曲は優里の「ドライフラワー」、国内で最も再生回数が多かったアルバムはYOASOBIの『THE BOOK』だった。