彼はそのトンネルの先に見えるご褒美にたどり着くため、「ポッドキャスト」に大きく賭けている。19年、ポッドキャスト制作会社「ギムレット・メディア」と、ビル・シモンズのポッドキャスト制作会社「ザ・リンガー」を買収。ツール面では、番組録音用ソフトウェアメーカー「アンカー」を1億5400万ドルで、さらに広告配信ネットワーク「メガホン」を2億3600万ドルで買収している。
また21年、スポティファイは人気ポッドキャスターとの独占ライセンス契約で話題を呼んだ。続いて大物著名人とも提携。 20年2月には、広告ネットワークを立ち上げ、同社の独占配信番組や、同社で配信するポッドキャスターのリスナーを対象に、ブランドがターゲット広告を配信できるようにした。
アップルはユーザーデータを出し渋ることで悪名高いが、スポティファイは真逆の方向に進んでいる。分析ツールをセットで提供し、ブランドやクリエイターが広告キャンペーンの効果を測定する手助けをしているほか、リスナー層の明快な情報を提供しているのだ。これには、ポッドキャスターたちも大喜びである。
シモンズは、「どのような手を打つべきか、何が間違っているのか教えてくれる」と明かす。例えば、彼のアメリカン・フットボールのポッドキャスト番組は当初、期待したほどの反響を得られなかった。ところがデータによると、競合番組はNFLシーズンの開始よりずっと前の段階で配信することにより、多くのリスナーを集めていた。そこでシモンズも番組の配信時期を早めると、リスナー数が飛躍的に増えたのだ。
スポティファイの次の一手は、クリエイターたちがファンと交流を深め、そして収入を得られる新しい収益モデルの構築だ。「無料ユーザー」と「有料ユーザー」は今後も残るが、選択肢を増やし、クリエイターが独占配信コンテンツや先行アクセス、対話型体験を有料で提供できるようにする。基本的な概念は、会員制クリエイター支援サイトの「Patreon(ペイトリオン)」や「OnlyFans(オンリーファンズ)」と同じだが、音声に合わせた作りになっている。
また、先ごろの「Shopify(ショッピファイ)」との提携により、アーティストは自身のスポティファイのページ上でチケットやグッズを販売できるようになる。どんなモデルになるのであれ、スポティファイは売り上げが発生するたびにその一部を得る可能性が高く、それは同社にとって、レコード会社や出版社と分かち合わずに済む新しい収益源となる。
ポッドキャスト事業が成功を収めていることから、エクは他の形式のメディアにも目を向けている。11月にはオーディオブックのネットワーク「Findaway(ファインダウェイ)」を買収し、アマゾンが所有する市場リーダーのオーディブルに挑もうとしている。
また、ビデオ・ポッドキャスト(動画付きポッドキャスト)の提供開始も発表している。21年夏には、ライブ配信サービスの「Greenroom(グリーンルーム)」を立ち上げた。コロナ禍で予想外にヒットしたライブトークアプリ、クラブハウスに対応する製品だ。
エクは直したがり屋で、改良に改良を重ねるタイプだ。確固たるマスタープランをもった、テクノロジー系の“ビジョナリー(先見の明の持ち主)”ではない。エク自身、「私には、スティーブ・ジョブズのような鮮明な未来図はない」と語る。
「ただ、方向性はもっています。迅速に動いていれば、いずれそこにたどり着くと確信しています」