Jリーグで最大の収入を誇り、選手やスタッフの年俸総額も突出して多い神戸は、実は監督交代数が最も多いクラブでもある。費用対効果を伴っているとは言えないその歴史を、2004年に神戸の経営権を取得し、06年から代表取締役会長を務める楽天グループの創業者、三木谷浩史氏の存在にひも付けて考える。
経営=クラブ運営
名門バルセロナとスペイン代表で活躍した稀代の司令塔、アンドレス・イニエスタの存在を介して、世界的にも名が知られるヴィッセル神戸が、“不名誉”な記録を作ってしまった。
開幕から2カ月余り。序盤戦を終えた時点で監督交代がすでに2度行われ、新しく就任したスペイン出身のミゲル・アンヘル・ロティーナ新監督は、川崎製鉄サッカー部が岡山県倉敷市から神戸市へ移転しヴィッセル神戸に名称に変えた1995シーズン以降で、延べ「29人目」の監督となった。そして、クラブの活動年数を歴代の監督数が上回るのは、今シーズンのJ1でいえば神戸だけで、これは不名誉な記録となる。
●歴代最多の8度のリーグ優勝を誇る鹿島アントラーズは「31年間で15人」
●直近の5シーズンで4度優勝した川崎フロンターレは「26年間で16人」
上記のように、強豪と呼ばれるクラブは、例外なく長期政権を託された監督がいる。神戸では、1999年シーズンから3年半にわたって指揮を執った川勝良一監督が最長となる。1年間を1人の監督で終えたケースは、28年間のクラブの歴史の中で半分の14度。残り半分の14度で、実に20回にわたって、シーズン途中における監督交代が繰り返されてきた。
しかも、楽天グループ創業者で神戸市出身の三木谷浩史氏がクラブの経営権を取得した2004年以降で、シーズン途中の監督交代数は、20回のうち「17」を占めている。
これが何を意味しているのかは一目瞭然だろう。目に見える結果を現場トップの監督に求め、そぐわないと判断すれば交代を即決する。楽天グループを1997年の起業から急成長させてきた剛毅果断ぶりを、サッカーの世界にも持ち込んだと言っていい。
2006年からは三木谷氏が代表取締役会長に就いた体制で今現在に至る。しかし、神戸がピッチ内で結果を残してきたかといえば、残念ながら答えはノーとなる。
解任ありきの人事体制
ヴィッセル神戸が国内三大タイトルで手にしたのは、2019シーズンの天皇杯だけ。真の実力が問われる長丁場のJ1リーグ戦においては、3位に躍進した2021シーズン最高位となっている。
迎えた今シーズンは状況が一変した。引き続き指揮を執った三浦淳寛監督は、リーグ戦で開幕から4分け3敗と未勝利が続いていた3月に解任された。
おりしも日本代表戦の開催に伴い、リーグ戦が中断期間に入ったタイミングだった。開幕から続く悪い流れを指揮官解任というショック療法を介して食い止め、新たな監督のもとで心機一転、立て直しを図っていく意味では致し方ない判断だった。
ただ、後任に指名されたスペイン出身の「リュイス・プラナグマ・ラモス監督」は、今シーズンから新設されたヤングプレイヤーデベロップメントコーチからの内部昇格。さらに就任に際して、神戸は「暫定的に指揮を執る」とわざわざ但し書きをつけている。
これが何を意味するのか。まず三浦監督の解任ありき。そしてリュイス監督のもとで白星を手にできれば儲けもので、暫定体制下の間に新監督を探すと明言したに等しい。