三浦知良55歳。自然体の挑戦がもたらす、あまりに大きな影響力

坂元 耕二

カズの鈴鹿入団会見の様子。左は鈴鹿の監督を務める兄の三浦泰年/photo by 鈴鹿ポイントゲッターズ

頂点に位置するJ1リーグから数えて4部にあたるアマチュアの最高峰、日本フットボールリーグ(JFL)で異変が起こっている。

開幕節で鈴鹿(鈴鹿ポイントゲッターズ)、第2節では岡崎(FCマルヤス)が入場者数のクラブ記録を更新した。注目度が決して高いとはいえないJFLで巻き起こっている、前例のないフィーバーの理由は、今シーズンから鈴鹿へ加入した「三浦知良」に他ならない。カズの愛称とともに老若男女に幅広く知られる、55歳のレジェンドがもたらすさまざまな波及効果を追った。

17年もの時空を超えて、カズを主役に歴史が繰り返される


ピラミッド型でリーグが構成される日本サッカー界で、頂点のJ1から数えて4部にあたる日本フットボールリーグ。英語の頭文字を取って「JFL」と略される、アマチュアの最高峰リーグがにわかに注目を集めている。

例えば3月20日に行われた第2節。自動車部品会社マルヤス工業の企業チームであるFCマルヤス岡崎のホームスタジアムである名古屋市港サッカー場の周囲にはキックオフを前にして長蛇の列ができあがっていた。

発表された観客数1420人は、それまでの最高だった1176人を8年ぶりに更新するクラブ新記録。昨シーズンの岡崎のホーム開幕戦がわずか149人だったから、平凡な数字に映る1420人がいかに突出しているかがわかる。

もっとも、大半の観客のお目当ては岡崎ではなく、対戦相手の鈴鹿ポイントゲッターズ。それも今シーズンから加入した55歳のレジェンド、カズだった。

思い出されるのは2005シーズン。J1のヴィッセル神戸で構想外となっていたカズは、7月末にJ2の横浜FCへ電撃移籍。サッカー界に大きな変化をもたらした。テレビ越しに何度も勇姿を見せた、あのカズがやってくる──。ホームの三ツ沢球技場だけでなく、横浜FCが乗り込む敵地のスタジアムも一気に盛り上がった。

必然的に横浜FC戦の観客数は直前のホーム戦から激増する。コンサドーレ札幌、湘南ベルマーレ、ヴァンフォーレ甲府、水戸も2005シーズンの最多を記録した。スタンドが1万4234人で埋まった甲府戦では、試合後に相手チーム関係者が恐縮しながら「カズさんだけ裏から出ていただけますか」と伝えてきた。ファン・サポーターが家路につかず、横浜FCのバスが出るゲートに殺到していたからだ。

「チームのバスとは違う車で出たのは久しぶりだよ。でも、甲府にしてもどこにしても、スタジアムがお客さんで満員になるのは本当に嬉しいこと。喜ばれれば僕としても嬉しいし、プレーしていてリズムも出てくる。乗ってくるんだよね」

17年前の取材でJ2での日々をこう語っていた、当時38歳のカズへ単刀直入に聞いた。走り続ける先の終着点、すなわち現役引退の時期は見えているのか、と。

「練習をしたくなくなったらとか、試合に負けても悔しくなくなったらだね。いまは毎年のキャンプで苦しい思いをしよう、という自分がいるし、そういう自分を必要としてくれるクラブがある限りはプレーを続けていきたい」

この答えを受けて、さらにたたみ掛けてみた。必要としてくれるクラブがJ2ではなく、JFLという状況になっても──カズは無邪気に笑った。

「40歳までは頑張りたい。いや、41、2……45──、かな」

愛着深い背番号「11」にちなみ、1月11日午前11時11分に横浜FCからJFLの鈴鹿への期限付き移籍が発表され、開幕直前の2月26日には55歳になった。本当にカテゴリーがJFLとなり、年齢は45歳にさらに「10」が上乗せされた。
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文=藤江直人

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