ビジネス

2022.03.12 18:00

感性の未来はどうなるか? SFでビジネスをアップデートせよ!

楽器や音響機器事業などを手がけるヤマハ。浜松の本社には立体音響やバーチャルステージといった最新技術が体験できるミュージアムが併設されている。


短編小説 EMPATHY ENGINE


あらすじ


岩崎・デイヴィス・美紀は、ミッキー・Dとして音楽活動する一方、国立大学のBMI(Brain Machine Interface)ラボにて「音楽がもたらす共感コミュニケーション」についての研究を行っていた。脳神経科学者、認知心理学者、言語学者とともにBMI技術を活用し、演奏と同時に演奏者の感情を直接聴衆に伝達する実験的なライブシステムを構築する。
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ミッキー・Dは、実験ライブにてプロテストソングを歌ったとき、社会運動に関心のなかった者からも深い共感を得られたことに感動をおぼえた。しかしやがて「それは正当な共感なのか?」という疑念が募っていく。不安は的中し、人種差別への抗議デモにおいて、システムを使った演奏をしたところ暴動が発生し研究が中断されることとなってしまう。

失意の中、ファンからの助言をもとに、彼女は演奏者が聴衆に感情を送るのではなく、逆に聴衆の感情を受信するという逆のシステムを思いつく。そこで彼女が見つけた、多様な共感による音楽の可能性とは……?

ストーリー冒頭部分


音楽は言語だ、とある音楽家が言った。
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メジャーコードに♯11を加えれば風景を立ち止まって見つめようと主張しているように聴こえるし、同主短調のコードは見抜いてほしいうそをつく表情をしている。跳ねないリズムでレイドバックした音符を並べれば、それは「服従していない」のサインだ。

言葉の壁を越えて感情を伝える言語。そんな音楽の共感の力を、BMI(Brain Machine Interface)を使ってより直接的に行使したら、音楽の意味は、人類のコミュニケーションのかたちはどのように変わるのだろうか……?

舞台袖の暗闇に光るタブレット端末で、いつものように脳信号のノイズリダクション量を調整する。設定に問題がないことがわかっているのに、しっくりとこない感触がわずかに残るのは、音楽の高揚感と実験の緊張感が交じり合っているせいかもしれない。自律神経を整えるために、深呼吸を繰り返す。

「ねぇ、美紀。それは演奏に対する緊張?それとも実験の緊張?」

自分より少し低い目線にいるジンは、手と一緒にドラムのスティックを白衣のポケットに突っ込みながら、演奏と研究のパートナーとしての安心感を漂わせようとしてくれていた。

「脳信号によると実験の緊張と不安のほうが強いみたい。この情報、今日の実験もしくは演奏のどちらかに役立つのかな?」

「少なくとも、BMIの設定はうまく出来たようだね」

実験成功のためにはいい演奏が必要である。慣れ親しんだ2つの要素がそのように絡み合うというのは、考えてみたら初めてのことかもしれない。自分としては音楽を真面目に探究し続けてきたつもりなのだが、気づいたら「BMIを介した音楽の共感プロジェクト」という名の実験ライブを行うことになっている。そのために脳神経科学者、認知心理学者、言語学者とともにセットリストを考えたことは、今度なにかのインタビューで話しておきたいお気に入りのエピソードだ。

今日の実験では聴衆に一人ひとり、BMIの受信機と高精度の生体センサーを装着してもらい、ライブの進行とともに私の感情とのシンクロ深度が計測される。そんなシステムを組んだチームには頭が上がらない。

しかしプロトタイプで試していたとはいえ、不特定多数の他者と実験するのは、人の感情が絡み合うだけ怖さがある。私はまだそのことを人にちゃんと伝えられていないのかもしれない。

「今日で音楽の意味というか、“音楽で共感すること”の意味が書き換わってしまうかもね」

そう言うと、ジンはいまさらそのことに気づいたのか?とでもいうような笑みを返しながら背中を軽くたたいてくれた。開演のブザーが鳴り、バンドメンバーとともに美紀=ミッキー・Dとして、LEDが光る舞台の暗闇へと足を踏み入れると、ジンが彼の母親の国の言葉で「がんばろう」と独り言のようにささやいた。
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ワークショップ企画 / 文=newQ(セオ商事)写真=西村裕介

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