ワークショップを終えて見えてきたもの
ヤマハの池田雅弘・技術本部研究開発統括部長は森・技術応用グループリーダーとともにこう振り返る。
「SFプロトタイピングワークショップは、ヤマハのパーパスを考えられる点で有益だと思いました。実は、将来をバックキャスティングで考える手法には懐疑的な思いもありました。科学技術は必ずしも直線的には進化しないと考えていて、20年後の社会がこうなっているから来年はこうなる、という考え方には批判的でした。しかし最終的に、ヤマハには今回のSFプロトタイピングの手法は向いていると思いました」(池田)
──ではどこに価値を見いだしたのか。
「ヤマハが会社として何を提供すべきか、楽器と人のあり方を考えることで、問いを深められたと思うんです。ヤマハは世界最高峰の楽器をつくるのはもちろん、楽器を弾いてコミュニケーションしてもらいたいからこそ、誰もが手に入れられて弾き方も学べる楽器を売っている。つまり、コミュニケーションそのものを売っている。楽器がコミュニケーションのための手段だとすると、楽器をどう改良するか? という技術的なhowの問いにとどまらない、未来におけるコミュニケーションのための手段はどうあるべきか? というwhatの問いを考えられた点に、今回のワークショップの意義があったと思います」(池田)
「SFの物語をつくる行為は、未来の技術だけを考えるのではなく、その世界で人がどうなっているかを考えることでもあるのだと思います。技術者が考えるとロジカルになりがちですが、物語にすることで膨らみが生まれ、そのなかで新しい発見がなされていきます。このプロセスは音楽のコミュニケーションそのものにも似ている。伝えたいことを一度音を経由して、受け取った人が別の解釈を膨らませていくような……。ワークを通じて、各人の経験から話ができ、それを互いに共有できました。終了後はSFが気になって本を買う人もいました」(森)