データ取引を規制する
金融取引の世界では信頼(トラスト)を確保することが不可欠であり、信頼の醸成には効果的な規制が必要になります。そのため証券取引所の規則は、透明性を確保し、相場操縦などの不正行為を防止することを目的としています。日本のような国では、そのした規制の対象が暗号通貨などの新しい資産にも拡大しています。
データ取引には、米国の証券取引委員会(SEC)に相当する規制機関はなく、特定の規制に関する法律もありません。データが非公開で売買されている限り、情報開示のルールやインサイダー取引に関する罰則を設ける必要はないかもしれません。しかし、公正なデータ取引の公開市場には同様な規制やシステムが必要となり、金融取引のように一般の人々に開かれた取引所では、専門家に限定された取引所よりも厳しい規則が必要になるかもしれません。
証券取引所とデータ取引所とではプライバシー保護の担う役割の大きさが異なります。プライバシー保護は、データ取引において重要な要素となります。データ取引に関わる事業者に関する規則は、市場参加者と一般市民双方のプライバシーに関する懸念に対処する必要があります。
データ取引の仕組みを構築することと、それを利用してもらうことはまた別の問題です。流動性が高いこと、つまり多くの買い手と売り手とが活発に取引をしていることが、市場を魅力的なものにします。では、まだ何もない状態からはどのように潜在的な市場参加者にアピールすればよいのでしょうか。
特にデータを売る側にとって明確で説得力のあるインセンティブの提供が重要になります。多くの企業は買い手側にまわることに関心を持っています。そのためには、金銭的な報酬だけでなく官民の幅広い関係者が協力して作り上げていく、信頼のおけるガバナンスが必要になるのです。
世界中で増え続けるデータの潮流は、良い方向に活用することができます。そして、そのためにはまずデータを共有する必要があるのです。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
文=Tomonori Yuyama, Fellow, Centre for the Fourth Industrial Revolution Japan, World Economic Forum; Tomoaki Nakanishi, Project Fellow, Data for Common Purpose Initiative, World Economic Forum; Dimitri Zabelin, Policy Analyst, Data Policy, World Economic Forum LLC
連載:世界が直面する課題の解決方法
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