世界はデータに溺れている。金融市場のように取引するには?

取引情報が、データ共有とアクセスを解放へ。(Yuichiro Chino / Getty Images)


証券取引所がなかったら、投資のたびに複雑な契約書を一から作成することが必要になるでしょう。投資による事業の出資比率は?配当を受け取る権利は?事業運営についての意見はどのように経営者へ伝えられ、他株主の意見とどう折り合いをつけるのか?こうした問いを埋めていく必要が生じるでしょう。

証券取引所はこうしたすべての問題を簡略化します。標準化された株券がオーダーメイドの契約書に取って代わり、すべての権利と責任を規定し投資と取引を容易にしているのです。

データ取引市場でも同様のツールが導入可能であり、されるべきです。

データ取引市場によって行われる取引において、買い手は一定の条件下で特定のデータにアクセスし使用する権利を得ることができます。この取引の詳細を、複雑な契約書の形ではなく受け渡し可能な「データ権利証明書」の形で記録することで、取引コストを削減し、流動性を高めることが可能になります。高い流動性はデータの価格設定を容易にし、取引所というビジネス形態も安定させます。

データ取引が進化を遂げ一般化すると、金融市場のように標準化された商品や取引フォーマットが登場するかもしれません。そうなれば、データ取引所はユーザーにとってより使いやすいものとなり、データ取引がさらに促進されるかもしれません。


データと証券取引の根本的な違い イメージ: Authors

バリュエーション(データの価値評価)の問い


金融市場における取引所が有用な理由の一つとして、人々が物の価値を測る上で役立っていることが挙げられます。株価は公開されているため、取引所での株の購入は、他の人がはるかに良い条件で取引をしているかもしれないという不安を払拭します。

データ取引市場でも情報を同じように扱うことが可能でしょうか。データの価値評価は難しいことで有名ですが、データ取引所は市場に一定の透明性をもたらし、需要・供給の調整にも役立ちます。ただし、これには限界があります。現在の市場価格とは対照的に、データの潜在的な価値は、それを評価するための新たな価値評価モデルの開発が必要になり、そのモデルなくしてユーザーをデータ取引所に惹きつけることは難しいかもしれません。

このような価値評価モデルは金融資産には存在しており、例えば株式価値は通常将来予想されるキャッシュフローの現在価値で評価されています。また、このモデルに基づいた計算を通して投資家にアドバイスする証券アナリストが大勢います。

データも理論の上では同じように評価することができますが、その実践はまだ始まったばかりです。データの価値は、狭義の売買モデルという文脈では理解できません。むしろ、データの自然増殖的な性質やデータの文脈的な価値、独自の見解を提供するさまざまなデータセットに与える意味合いも含める必要があるのです。
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