ハンドボール新リーグは「第4のメジャースポーツ」になれるのか?

JHL提供


JHLが「シングルエンティティ」で果たすべきこと


前述のとおり、新リーグではシングルエンティティ型事業モデルの採用により、チームの収支改善をサポートして、健全経営のスタートラインに立つことを短期的な目標としている。ただし、権益を集中したリーグがお金を作れなければ構想自体が絵に描いた餅になってしまう。

リーグに事業権を集約することでリーグ・チーム間の調整コストは極小化され、権益を統合したスケールメリットも期待される。パートナー企業に対する提供価値を拡充してリーグ主導でナショナルクライアントを対象にしたスポンサーシップ営業を展開したり、来場者やメディア視聴者データを統合して一気にリーグ全体でDXを推進するなど、シングルエンティティならではの機会を上手く活用したい。


一般社団法人日本ハンドボールリーグ代表理事の葦原一正氏(JHL提供)

また、チームにとって事業が他人事になってしまっては、事業価値向上へのインセンティブは希薄になり、チームに残される強化や地域密着といった役割との有機的な協働も望めない。

決してここで誤解して頂きたくないのは、この構想はリーグが事業権をチームから取り上げるのではなく、チームの手が回らない部分を支援しながら、リーグ主導でスピーディーに事業拡大や観戦環境の改善に手を打っていくのが趣旨だという点だ。

そのため、リーグ・クラブ間の事業権益については理事会等で今後議論を詰めていくことになるが、実業団でも福利厚生型ではなく事業志向型のチームだったり、既に独立採算での経営を進めているクラブチームには、一定ルールのもとで事業権を戻すことも検討している。

リーグ運営に透明性、中立性が求められることも十分認識している。このことは実はJHL独立法人化の時点から重視されており、理事についても、早稲田大学スポーツ科学学術院の間野義之教授を委員長とした役員候補者選考委員会が組織され、公平性を追求した選出が行われた経緯がある。今後もシングルテンティティの成否にも関わる、徹底されるべき姿勢だ。

次回のコラム(1月18日公開)では、この日本ではあまり馴染みのない「シングルエンティティ」が本家米国で誕生した経緯やリーグ構造の特徴、運営上のモラルハザードを防ぐための知恵などを整理し、ハンドボール新リーグでの導入におけるポイント、他のスポーツ競技にも活用できる普遍的な考え方について解説する。

>> 「日本流シングルエンティティ」は、新たなリーグ経営モデルになりうるか?


鈴木友也◎トランスインサイト創業者・代表。1973年東京都生まれ。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、米マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経営学修士)。日本のスポーツ関連組織、民間企業などに対してコンサルティング活動を展開している。2021年6月より一般社団法人日本ハンドボールリーグ理事。

連載:日米スポーツビジネス最前線

文=鈴木友也 編集=宇藤智子

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