ハンドボール新リーグは「第4のメジャースポーツ」になれるのか?

JHL提供


成長のボトルネックを生む「合成の誤謬」



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一般的に実業団チームでは、親会社の規模が大きくなるほど、チーム経営を「事業」として行いづらくなるというジレンマを抱えている。スポーツから期待できる事業ポテンシャルが小さいため、社内でスポーツを事業として本気で取り組むという意思決定を行うより、福利厚生の範囲内での活動に留めておいた方が現実的なのだ。

バブル経済の真っただ中ならまだしも、社内の不採算部門や傘下の関連会社の合理化・リストラを行っている中でスポーツだけ特別扱いする(不採算なのに事業化する)わけにはいかない。上場企業なら株主代表訴訟の対象になるリスクもある。

こうした福利厚生型実業団チームのメリットは、保有企業という最大の支援者がいることだが、一方でチームスタッフがいくら頑張って顧客開拓しようとしても、会社からのリソース支援(予算やスタッフ増など)は期待できず、事業拡大に制約があるのがデメリットになる。

一方、クラブチームの多くは法人化しているため、事業拡大において実業団チームのような制度的な足かせはない。ただし、ハンドボールのようにまだメジャーではないスポーツでは、実業団チームのような大きな支援母体がないチームが多く、安定した経営基盤を築けずに資金繰りが厳しいのが実態だ。

チケットを有料販売するクラブチームの横で、社員に無償配布する実業団──


このように対照的な特徴を持つ実業団とクラブチームが混在したままリーグ戦を行うと、経営上様々な問題が生じる。例えば、クラブチームがチケットを有料で販売する横で、実業団が社員にチケットを無償配布する、といったことが起こる。チケット販売はチーム経営の一丁目一番地であり、他の収益源のマネタイズを促す(=マネーを送り込む)“心臓” に当たるが、このような状態ではチケットは売れないし、リーグ全体で事業価値の向上は望めない。

ただし、チケットを無償配布する実業団が「間違っている」という訳ではない。クラブの最大の支援者である親会社に少しでも便宜を図りたい気持ちは十分理解できる。

ここで問題なのは、目線の異なるクラブチームと実業団が互いに「正しい」ことを行っていることが結果として足を引っ張っているという状況、いわゆる「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」である。つまりこれはインセンティブ設計の話であり、ガバナンスの問題なのだ。

勝っても負けても変化がない環境も


また、支援企業の体力差から、経営自由度が高いはずのクラブチームが実業団の後塵を拝している現状では、実業団チームのほうが練習環境や選手待遇が良く、こうしたチームに良い選手が集まり、チームのレベルも高くなるという二極化した状況が生まれる。そして、実業団チームがクラブチームに歩調を合わせて、適度にブレーキを踏みつつ競争環境を維持するという構造ができあがる。

これでは、死ぬ気でプレーして結果を出さなければクビになる、生き馬の目を抜くような熾烈なプロフェッショナルの環境とは言えない。勝っても負けても処遇に変化がない環境では、選手だけでなく、コーチも審判も経営者もレベルアップせず、世界最高峰リーグを目指すにはほど遠い。
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文=鈴木友也 編集=宇藤智子

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