スポーツが教育のツールとして発展してきた日本では、歴史的にスポーツ施設は国民(競技者)の心身を鍛える場として設置されてきた経緯がある。そのため、多くのスポーツ施設は顧客を想定せず、来場者や主催者の利便性に配慮した「観る」ための施設としては貧弱なスペックしか持ち合わせていなかった。その景色が、沖縄アリーナのオープンにより一変する。
陸上100m走の9秒台やフィギュアスケートの四回転ジャンプはかつて「人類では不可能」と言われた時代もあった。しかし、一人の選手がその壁を破ると、それが当たり前になり、多くの選手が後に続く。沖縄アリーナは、日本で初めて誕生した “競技を魅せるアリーナ” として歴史に名を残し、今後はこうした施設が日本のスタンダードになる。バスケットボールを筆頭にこれからの屋内スポーツの観戦体験は劇的に向上するだろう。
自らで観戦体験を高められない日本の球団 収入構造にも影響
球団が施設における観戦体験を完全にコントロールできる一体型経営の実現は日本スポーツ界の悲願である。日本では、まだ多くの球団が施設運営を主体的に行えず、自由な改修や演出ができずに観戦体験を高められないという課題に直面している。
この影響は球団の収入構造にも端的に表れており、JリーグやBリーグの球団経営において最大の収入はスポンサー収入で、チケット販売の2~3倍に達する。対象的に、米国のメジャースポーツではチケット販売収入がスポンサー収入の2~3倍というのが一般的だ。
日米で収益構造に大きな違いが生まれるのは、日本ではスポーツ施設における観戦体験を革新する主導権を球団が持てず(観戦価値=チケット単価を上げることが難しい)、協賛収入に依存せざるを得ない構造的な要因がある。“魅せるアリーナ” の誕生が、こうした課題が解決されるきっかけになることを期待したい。