ハンドボール新リーグは「第4のメジャースポーツ」になれるのか?

JHL提供


しかし、実は日本でこの手法により成功した競技は意外に少なく、独立法人化を強要した結果、実業団チームが離反してリーグが分裂するか、「新リーグ」と化粧直ししただけで実態は変わらず、本質的な問題解決が先延ばしにされるケースが多かった。
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チームに独立法人化を求め、選手契約も専業プロを求めるような「完全プロ化」を目指すことが果たして、今のハンドボール界にとって最もサステナブルな方向なのか──?

理事会ではこの検討に最も時間を費やすこととなった。いくつかの戦略シナリオを考えて長所短所を議論し、各チームの意見も聞いた。

独法化は求めない。「シングルエンティティ型」モデルを採用することに


出した結論は、新リーグ構想ではチームに独法化を必ずしも求めない、その代わり、一旦リーグに主要事業(チケット、スポンサー、放映権、グッズ)を集約し、社内制度的に、あるいはリソース的にチームが制約を受ける事業拡大をリーグが肩代わりして行う「シングルエンティティ型」事業モデルを採用することにした。
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リーグレベルでスポーツ事業のプロ化を実現しながら、チームに独法化を求めず、実業団でも比較的参画しやすい形を取ることにしたのだ。

実業団という既存モデルの良さを必要に応じて残す「ハイブリッドモデル」とも言えるかもしれない。


出典:JHL 次世代型プロリーグ構想特設サイト

「業績不振により、廃部。」を繰り返さないために


経営数値をみると、各チームは平均約2億円の予算を使っているが、特にJHLで大半を占める実業団チームでは収入がほとんどない状況だ。支出の半分は選手の年俸で、残りは運営費。これらの支出は実業団なら親会社が負担し、クラブチームの場合はスポンサー企業からの協賛収入や雇用機会の提供(その対価としての選手年俸の負担)によりカバーされている。

選手は年俸を負担してくれる企業(親会社やスポンサー企業)に勤務しているケースが多く、実業団の場合は親会社に正社員として雇用されているケースが大半だ。クラブチームの場合はスポンサー企業の業種によりまちまちだが、中には早朝に農作業を行ってから練習を行っているところもある。プロ契約を結んでいる選手はリーグ全体で5%にも満たないレベルだ。

いずれも企業に大きく依存する形になっているが、一企業に頼りすぎると会社が業績不振に陥ったり、マネジメント体制が変更になるとあっという間に廃部になってしまうリスクがある。日本ではこうした理由から廃部になったチームは枚挙にいとまがないが、これではサステナブルな経営とは言えない。

企業や選手の負担を考えても、もう少し収益源を多様化して収入基盤を安定させ、最低でも収支トントンの状況を早く作りたい。サステナブルな経営に向けた第一歩として「使った分は稼ぐ」状況に早く持っていきたいというのが、短期的な目標だ。

まずは3年で、平均観客数1500人・売上1.5億の「収支トントン」を目指す


理事会では事業計画について、平均観客動員数を現在の約500人から1500人に増やし、1チーム当たりの売上を1億5000万円程度に伸ばして、この使った分は稼ぐ「収支トントン」の状況を3年程度で実現するタイムラインで精査しているところだ。中期的には、平均観客数3000人・売上5億円を目指し、アリーナを基点としたソフトとハードの一体経営を推進していく。

この辺りの経営数値は、比較的規模や経営環境の似ているBリーグ2部リーグ(B2)の成長曲線を参考にしている。Bリーグ参入前は平均観客数数百人・売上数千万円だったB2クラブが、Bリーグになって3年後には平均観客数約1500人・売上3億円超と急成長を遂げている。

先にも述べたが、野球やサッカー、ラグビーなどよりも選手枠が少なく、固定費もそこまでかからないハンドボールは、チーム経営における損益分岐点も低く、アリーナ競技としてのポテンシャルもある。中長期的に大きな伸びしろのある競技だと言える。
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文=鈴木友也 編集=宇藤智子

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