「日本流シングルエンティティ」は、新たなリーグ経営モデルになりうるか?

松井隆JHL事務局長、土井レミイ杏利選手、葦原一正JHL代表理事、原希美選手、太田雄貴JHL理事(JHL提供)

新リーグ創設を2024年に目指す日本ハンドボールリーグ(JHL)の「次世代型プロリーグ構想」で採用されることになった「シングルエンティティ型」事業モデル。

スポーツリーグが世界を目指すには、プロ化(チームの独立法人化)はいずれ不可避である一方、拙速なプロ化は本質的な問題解決を困難にする。

JHLはシングルエンティティモデルを“日本流にアレンジ”し、リーグレベルでの事業のプロ化を実現しながら、チームに独立法人化を必ずしも求めず、実業団でも比較的参画しやすいリーグ経営の方向性を打ち出した。リーグに事業権を集中してチームの収支改善をサポートし、いち早く健全経営のスタートラインに立った上でリーグ主導でスピーディーに事業拡大を進めることを目標にしたのだ。

今回のコラムでは、この日本ではあまり馴染みのない「シングルエンティティ」という経営モデルが本家米国で誕生した経緯や特徴、運営の要諦について解説してみたい。

筆者は昨年6月よりJHLの理事を務めており、前回に引き続き、一理事の立場から新リーグ構想について、できる限りかみ砕いて皆さんにお伝えしたいと思う。本コラムはJHL理事としての私の個人的な意見であり、JHL理事会としての正式見解ではないことを申し添えておく。

>> 前回:ハンドボール新リーグは「第4のメジャースポーツ」になれるのか?

法廷戦術から誕生。米国新興プロリーグの主流モデルに


「シングルエンティティ(Single Entity)」は直訳すれば「単一体」「単一組織」などとなるが、実はこの英単語はもともと法律用語として生まれたものだ。

昇降格のない「閉鎖型モデル」を採用する多くの米国プロスポーツリーグでは、できるだけ各チームの戦力を拮抗させ、接戦を増やすことを念頭に置いた「戦力均衡策」を取る。チームが拠点を置く市場規模に関わらず経営規模を均等化し、選手の流動性を適切に管理することで「スモールマーケットの貧乏チーム」が「ビッグマーケットの金持ちチーム」と伍して戦えるように業界全体を調整する、護送船団方式とでもいったところか。

代表的な施策としては、経営規模の均等化からは「収益分配制度」や「サラリーキャップ制度」、選手の流動性管理からは「ドラフト制度」や「選手保留・FA制度」などが挙げられる。これらの制度はヨーロッパのサッカーリーグなどに代表される「開放型モデル」にはあまり見られないもので、両者は対照的なリーグのガバナンスモデルだ。


出所:Trans Insight Corporation

一部の球団や選手の利益を犠牲に


こうした戦力均衡策は全体協調のために、一部の球団や選手の利益を犠牲にする。

例えば、収益分配制度ではリーグがテレビ放映権を集中管理して分配原資にしたり、球団間で収入を再分配するケースがあるが、これらは稼いでいる球団の立場からは事業権の侵害に映る。選手から見れば、ドラフト制度は職業選択の自由の侵害だし、保留制度は転職の自由を制限するものだ。

訴訟大国であるアメリカでは、戦力均衡策が度々「反トラスト法(日本の独占禁止法に当たる)違反」として訴えられた経緯がある。

反トラスト法訴訟でのシングルエンティティ抗弁→シングルエンティティ・リーグ登場


訴訟で被告側が取る法廷戦術の1つが「シングルエンティティ抗弁(Single Entity Defense)」だ。

反トラスト法違反で提訴する前提として、原告は「複数の組織が共謀して公正な取引を阻害した」事実を証明する必要があるが、被告側が「リーグと球団は一心同体であり、実質的に単一体である」、つまり、複数組織による共謀の事実はないという反論を行うのだ。

しかしながらシングルエンティティ抗弁は、米国では1980年代から訴訟で用いられるようになってきたが、リーグとチームが別法人として組織・運営されている以上決定的な抗弁にはならず、必ずしも被告の主張が認められるわけではなかった。それを大きく変えることになったのが「シングルエンティティ・リーグ」の登場である。
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文=鈴木友也 編集=宇藤智子

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