「日本流シングルエンティティ」は、新たなリーグ経営モデルになりうるか?


先駆けはMLSやWNBA。MLR、XFLも


1990年代に入ると、シングルエンティティ抗弁を発展させ、リーグの組織構造そのものを「単一体」として設計するシングルエンティティ・リーグが登場することになった。その先駆けとなったのが、当時誕生したMLS(メジャーリーグ・サッカー)やWNBA(米女子プロバスケットボールリーグ)などの新興リーグだ。


デビッド・ベッカム氏(Photo by Robert Mora/MLS via Getty Images)

例えば、MLSでは「MLS有限責任会社契約(MLS LLC Agreement)」と「チーム運営契約(Team Operating Agreement)」の2つの契約によりシングルエンティティ・リーグを法律的に実現している。前者は、実質的な球団オーナーである投資家(Investor-Operator)を有限責任会社(LLC)として設立されたリーグ機構の株主にする契約で、リーグの意思決定は全てMLS LLCが行う状況を作り出している。

選手契約も全てリーグが行う形にするため、法的には事業の意思決定では1つのリーグ機構しか存在しない(チームという概念はない)状況になる。そして、実質的な球団事業はチーム運営契約により「リーグ事業の一部業務委託」という形で割り振られる。これにより、文字通りシングルエンティティ(単一体)になるため、複数組織の共謀が前提となる反トラスト法での提訴は困難になるのだ。訴訟リスクを極小化する意味では、戦力均衡を目指す究極の形と言ってもいい。

こうしたシングルエンティティ・リーグは、人員などのリソースが限られるプロリーグの立ち上げ期やマイナー競技が主に採用する組織形態で、スピーディーな事業スタートアップや大胆な戦力均衡策の推進を可能にするものだ。米国で近年設立されたMLR(2018年に設立されたプロラグビーリーグ)やXFL(2020年に復活したプロフットボールリーグ)などのプロリーグもシングルエンティティとして設計されている。

無理に真似る必要はない。JHLでは日本流にアレンジ


米国で法廷戦術が進化して生まれたシングルエンティティ・リーグだが、訴訟を日常的な紛争解決の手段として用いることが少ない日本では組織設計面(リーグ単一の組織設立や選手契約の一元化)を無理に真似する必要はない。

JHLは、米国にはない日本独特の実業団という仕組みの良さを残す意味でも、リーグ・チーム・選手間の組織・契約関係は残す方が賢明と考えた。

一方で、チームが手の回らない事業拡大を支援していち早く収支改善をサポートしたり、スピーディーに事業拡大するためには、リーグに事業権を集約する考え方はとても有効である。

米国のシングルエンティティモデルを日本に合うようにアレンジし、選手契約の面などは従来の日本のモデルを残しつつ、事業面だけリーグ集約型にした「日本流シングルエンティティ」を創り出したのだ。実業団とクラブチームが混在しながらも競技レベル向上や事業成長を目指すことができる環境を用意した形だ。
次ページ > 「フリーライダー」は許されない

文=鈴木友也 編集=宇藤智子

タグ:

連載

Forbes Sports

ForbesBrandVoice

人気記事