ビジネス

2021.12.28 17:00

プーチンに国営化された男の告白。ロシア最大AI企業が狙う世界戦略


「ラストワンマイル問題」の特効薬


「将来、『人が運転するクルマに乗っていたの?』と言われる時が来るはず」。スマート・モビリティ関連の起業家や投資家の多くは安全面と経済性、効率性の観点から、そう語る。ヴォロズは、経済性と効率性についてはすでに実現していると認める。今では、センサーやアルゴリズムのコストのほうが、人間のドライバーを雇うよりも安価なのだ。残る課題は「安全面」だが、アルゴリズムの急速な進化で、「人が運転することが許されるのか?」という議論になるのも時間の問題かもしれない、とさえ言う。

仕事をAIとロボットに奪われるとは、メディアお得意の切り口だが、代わりに創出される「未来の仕事」がまだ具体的に見えない今、悲観的な「仕事の未来」のほうがクローズアップされがちだ。ところが、ヴォロズは自動運転車の開発を始めた段階で、真逆の現象に気づいた。「ドライバー不足」である。

eコマースが普及し、物流の競争が加速する中、物流拠点と顧客が商品を受け取る地点までの最後の区間、「ラストワンマイル問題」をどう解決するかが課題になっている。パンデミックでこの問題はより深刻化した。タクシーの運転手や配達ドライバーの数が足りていないのだ。

「このままでは、世界の半数の人が残りの人々に仕えるという本末転倒の事態になりかねません。テクノロジーで、タクシー運転手や配達ドライバーの負担を軽減する必要があります」

ヤンデックスは、これを「21世紀の社会課題」と捉えている。同社は、前出のロボ・タクシーのほか、自動運転技術を搭載した小型配達ロボット「Rover(ローバー)」を開発。21年8月には米デリバリー企業「Grubhub(グラブハブ)」と提携し、オハイオ州立大学やアリゾナ大学のキャンパスで学生向けに配達することを発表している。

ヴォロズは、自身を「楽観的なテクノロジスト」と前置きすると、穏やかな笑顔でこう締めくくった。

「未来に起こる問題も、本質的には過去とそう変わりないと信じています。人類はその都度、解決策を見つけてきました。我々は今も生き残っていますし、きっと、道は見つかるはずですよ」

BACK IN THE USA〜ロシアから再び米国へ〜




2018年12月にイスラエル運輸・道路安全省から許可を取得して以来、テルアビブ市内の一般道・高速道路で自動運転車の走行に関する実証実験を行ってきた(上)。22年初頭、指定された区画内限定だが、満を持してロシアの首都モスクワでドライバーレスの「ロボ・タクシー」運行を開始する。

自動運転車用に開発したアルゴリズムとLiDARは小型ロボット「ローバー」にも搭載されており、米デリバリー企業「グラブハブ」との提携も発表。オハイオ州立大学やアリゾナ大学の広大なキャンパス敷地内で事業が展開される予定だ(下)。




ヤンデックス◎1997年創業、ロシア最大の総合テクノロジー企業。創業者はアルカディ・ヴォロズほか。機械学習をベースに、同国最大のインターネット検索サービスのほか、eコマースや音楽配信、タクシー事業、デリバリー事業なども展開する。自動運転車の開発も進めており、2022年初頭に「ロボ・タクシー」を運行予定。

アルカディ・ヴォロズ◎ヤンデックス共同創業者兼CEO。ネットワーク通信企業「コンプテック」を創業後、1997年にイリア・セガロビッチとともに検索エンジン事業「ヤンデックス」を立ち上げた。学生時代は、コンピュータ科学と応用数学を専攻していたという連続起業家。

文=井関庸介 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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