起業家たちよ、「同胞」たるアーティストを財政支援せよ

サザビーズでオークションにかけられるジャン=ミッシェル・バスキアの作品 "Justcome Suit"(ロンドン、2020年 Photo by Tristan Fewings/Getty Images for Sotheby's))

世界の教養人との親交も深く、著書『読書大全』もある元森ビルCFO、堀内勉氏が、自らが到達した真の「贅」について綴る本連載

前回「海外富裕層は『資産四分法』? 彼らがアートを買う理由」では、世界中でアートの価格が高騰していること、投資としてアートを買う場合は「新たな価値観を提示しているか」が決め手になることなどが語られた。

前回を受けての本稿では、「道なき荒野を切り拓く」起業家の精神と現代アートのあり方が実は重なり合うこと、起業家を始めとする同時代人がアーティストをいかにパトロネージュ(財政支援)し得るか、またし始めているかなどに触れていく。


現代アートの「揺さぶり」力は、起業家精神と重なる


前置きがとても長くなったが、このフォーブスでの連載『贅の流儀 Life of Affluence』という意味において、これまでの話のどこが「affluent(豊穣)」なのかと思うだろう。もちろん、これまでの話は純粋なビジネスマターであり、「贅」でも「豊穣」でもなんでもない。どの会社の株式が将来値上がりするのかというのと同じ類の話である。

但し、別の視点から見てみると、これまで述べてきた現代アートの「価値観に対する揺さぶり」というのは、実は起業家精神と極めて相性が良い。毎日同じルーティーンを繰り返す大組織の雇われ人とは違った、道なき荒野を切り拓き、新たな未来を作り上げていく起業家のイノベーティブな精神と現代アートのあり方は、ぴったりと付合する。

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ニューヨークを拠点とする日本人アーティスト照屋勇賢氏。日常に存在するオブジェを微細にずらすことにより、異なる世界を生み出す(Photo by Bilgin Sasmaz/Anadolu Agency/Getty Images)

有名な起業家のオフィスや別荘に行くと、大抵現代アートの作品が飾ってある。単なる投資としてではなく、彼らのマインドセットが精神の高揚と変革をもたらしてくれるアート作品と通じ合うからなのではないか。そして、アート作品の購入がそうした視点で行われる時に、ようやくアートは価格の世界から感性の世界に戻って来るように思う。

「作品の購入」からこそ回転を始めるアート市場


そうした、自らの事業意欲を高めてくれるアート作品と向き合うひと時も素晴らしいが、私が成功したビジネスパーソンに勧めたいのは、更にその次のステップである。

元来、アートが存在するためには、パトロン(支援者)が必要であった。パトロネージュ(支援)というのは、王、教皇、貴族、資産家などの特権階級が芸術家に与えた支援のことであり、パトロンはそれを彼らの政治的・社会的地位や特権を強化するために利用してきたのだが、その動機のいかんはともかく、パトロネージュは美術史において大きな役割を果たしてきた。


多くのアート、アーティストがパトロネージュによって支えられてきた。(写真は、ミラノ・スカラ座のギャラリーに飾られる、20世紀後半のイタリアアート/Photo by Thomas Ronchetti/Anadolu Agency via Getty Images)
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文=堀内勉

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