しかし、現代の大衆社会においては、王侯貴族や宗教組織によるような大掛かりなパトロネージュはあり得ない。代わりにその役割を果たしているのが、資本主義社会の勝者である資産家や起業家である。
今回のコロナ禍でエッセンシャルワーカーの問題が浮き彫りになったが、同時にこれから世に出ていこうとする若者たちの将来も大きな社会課題である。それなりの社会人経験を持った人たちは定職や資産運用で安定的な収入があるだろうが、若い人々はこれから人脈を築き、収入を増やしていかなければならないし、そのための自己投資も欠かせない。
2021年は特に東京オリンピックでスポーツ選手への支援が議論されたが、これはアーティストも同じである。アーティストは作品を購入してくれる人がいなければ、生活が成り立たないし、次の作品作りのための具材も買い揃えられない。
従って、アートにせよ工芸にせよその他の芸術活動にせよ、まずはどんなに小さな金額でも良いから、資金的な余裕のある人が作品を購入するというのがスタートラインである。そこから資金が循環し始めるし、アート市場が回転を始める。
芸術性と市場性の両立を。実は盛んな「パトロネージュ」の活動
そのような若手アーティスト支援のための取り組みは、実はたくさんある。例えば、千代田区の廃校跡の文化施設「アーツ千代田 3331」で毎年開催されている『3331 ART FAIR』という取り組みがある。ここは芸術性と市場性の両立を目指すアートフェアとして活動を続けており、「コレクタープライズ」という賞では、「作品購入=賞の授与」という発想で、著名コレクターや企業人など各界のキーパーソン約100名がプライズセレクターとして参加している。
また、『3331 ART FAIR』では、The Chain Museumが運営するアート・コミュニケーション・プラットフォーム「ArtSticker」と連動したアーティスト支援活動も行なっている。2021年は更に、若手工芸家を支援する川村文化芸術振興財団とザ・クリエイション・オブ・ジャパン(COJ)共催の「ファースト・パトロネージュ・プログラム(FPP)」もこのフェアに参加した。
その他、例えば企業のCSR活動としては、三菱商事が実施している若手アーティスト支援プログラム「三菱商事アート・ゲート・プログラム(MCAGP)」がある。ここでは、若手アーティストの作品購入という経済的支援だけでなく、学びの機会やメンタリングを取り入れた育成プログラムも行なっている。
これまで、芸術の制作は指導しても、作品の売り方やコレクターとの付き合い方を教えてくれる芸術大学はほとんどなかったが、こうした取り組みを積極的に行っているのが、京都芸術大学である。同校の椿教授がディレクターを務める『ARTISTS’ FAIR KYOTO』では、「アーティストオリエンテッドの新たな自立型マーケット生成」のために、毎年多くの若手アーティストを積極的に売り出しており、コレクターと若手アーティストとの出会いの場となっている。
三菱地所も丸の内仲通りで彫刻の森美術館と連携して彫刻を展示するなど、アート支援に積極的な企業のひとつだが、椿教授が推薦する若手アーティストの作品は、三菱地所が東京丸の内に立ち上げた会員制クラブ「OCA TOKYO」にも数十点が常設されており、そこで気に入った作品を購入することもできる。