起業家たちよ、「同胞」たるアーティストを財政支援せよ

サザビーズでオークションにかけられるジャン=ミッシェル・バスキアの作品 "Justcome Suit"(ロンドン、2020年 Photo by Tristan Fewings/Getty Images for Sotheby's))


アートと言えば、瀬戸内海の直島で「ベネッセアートサイト直島」を運営するベネッセが有名だが、このように幾つかの企業がアートの積極的支援活動を始めているのである。

手前味噌になってしまうが、私がアート委員会の共同委員長を務めている「アジア・ソサエティ・ジャパン・センター」のアート委員会でも、毎月、若手アーティストをスピーカーとして招待し、アーティストに会員との交流の場を提供して、社会に対するエクスポージャーを持てるよう支援している。

その他、アート好きのビジネスパーソンなどが集う、「アートコレクターズ・サークル」という私的交流の場もたくさんあり、コレクター同士の情報交換や啓発の場として活用されている。

*上述した「パトロネージュ」の活動の例
・「アーツ千代田 3331」の『3331 ART FAIR』
・「川村文化芸術振興財団/ザ・クリエイション・オブ・ジャパン(COJ)」の「ファースト・パトロネージュ・プログラム(FPP)」
・「三菱商事アート・ゲート・プログラム(MCAGP)」
・京都芸術大学の『ARTISTS’ FAIR KYOTO』
・三菱地所の「OCA TOKYO」
・「ベネッセアートサイト直島」
・「アジア・ソサエティ・ジャパン・センター」の「アート委員会」

人生の豊穣──自ら見極めた所有作品と過ごす「愉悦」


作品を買うだけでなく、アートを見る目を養うために、自分自身が芸術大学に通ってみるのも良いだろう。ビジネスの一線で活躍を終えた還暦前後になり、改めてアートを勉強してみたいということで、芸術大学に通っている友人も多い。東京芸術大学では多くの公開講座を開催しているし、先の京都芸術大学や武蔵野美術大学など、通信教育コースを開催しているところもたくさんあるので、時間のある人にお勧めしたい。

共和政ローマ末期の政治家キケロは、『老年について』という著作の中で、善い人生を生きるために、人から相談され尊敬されるような人間性に富んだ威信のある老人になることを勧めている。そして、それは一朝一夕に達成できることではなく、若いうちから立派に生きた結果として得られる果実なのだと言っている。

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(Getty Images)

次世代の若手アーティストとフェイス・トゥ・フェイスで交流し、自らの経験と知識に基づく眼力で作品を見極め、それを購入することで彼らの制作活動を支援し、自分がいなくなった後の世界をも展望した芸術の地ならしをする。お気に入りの若手アーティストが手がけた作品を眺めながら、アートの未来に思いを馳せ、人生の豊穣の時を楽しむ。そうしたアートとの関わり方、そのようなお金の使い方を推奨したいと思う。

前回記事>>>海外富裕層は『資産四分法』? 彼らがアートを買う理由

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堀内勉◎多摩大学社会的投資研究所教授。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了。日本興業銀行(現みずほ銀行)、ゴールドマン・サックス証券を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)。現在、ボルテックス100年企業戦略研究所所長、社会変革推進財団評議員、川村文化芸術振興財団理事、経済同友会幹事、書評サイト「HONZ」レビュアーなどを兼任。著書に『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(編著、日本評論社)、『読書大全』(日経BP社)他。

文=堀内勉

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