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2021.11.26

「贅」の流儀 価格から解放された価値とは?

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堀内勉氏。東大法学部からハーバード大学法律大学院に進み、日本興業銀行、ゴールドマン・サックス証券を経て森ビルCFOも務めた、金融と不動産の世界では知る人ぞ知る人物だ。

現在は、多摩大学社会的投資研究所の教授や100年企業戦略研究所の所長として、持続可能な社会や企業の研究を続けるほか、スペイン・バスク地方に始まる美食倶楽部の日本版として設立された日本ガストロノミー協会の理事、川村文化芸術振興財団の理事、アジア・ソサエティ・ジャパン・センターのアート委員会共同委員長などを務めながら、成毛眞氏が代表を務める書評サイトHONZのレビュアーとしても活動するマルチな教養人であり読書人だ。

ビジネスマンとしてバブル崩壊やリーマンショックを身をもって体験したことで、自らの精神世界と向き合い、その結果、文化に強い関心を持つようになった氏は、「教養とは、知識の獲得だけを意味するのではなく、『どう生きるか?』という生の実践と不可分であり、人間の幸福を追求し、より良い生やより良い社会の実現を目指すためのものだ」という。そんな堀内氏が到達した「贅」の定義とは。また、世界の超一流の人物たちの「贅沢」とは。連載でご寄稿いただく。


2015年、55歳を区切りに森ビルを辞めた時に、残りの人生をどのように生きるべきかを熟考した。その結果、好きなように生きてみて、本当に生きていけるのかを試してみようと決めた。

新卒で邦銀に就職し、次に外資系証券会社に転職して、森ビルに移ってからもそれなりに真面目に仕事をしてきたつもりではある。しかし、元来、気が散りやすい性格で、コツコツと仕事に打ち込むより自分の好奇心の赴くまま生きる方が性に合っているし、これからの時代にもマッチしていると感じていたからだ。

そのきっかけとなったのが、2008年に森アーツセンターという事業部の担当役員になったことである。アーツセンターというのは、六本木ヒルズ森タワーの49階から最上階の53階まで、更に屋上のスカイデッキも含めた事業の総称で、森美術館、ギャラリー、展望台、アカデミーヒルズ、六本木ヒルズクラブなどが含まれている。

分かりやすく言えば、森ビルの文化事業部ということなのだが、これがなかなか楽しかった。なにしろ、美術から食から学問まで、文化に関するものなら何でも入っているので、給料をもらいながら教養を勉強させてもらっているようなものだったから。当時のアーツセンターの理事長は元駐英大使の藤井宏昭さんで、森美術館の理事長は森佳子さん(故森稔夫人)、館長は南條史生さん、アカデミーヒルズの理事長は竹中平蔵さんと、とても刺激に満ちた人々が集う事業部だった。

森ビルアーツセンターは「文化都心」の具現だった


私の専門分野はファイナンスで、その能力を買われ、中途入社にもかかわらず森ビルのCFOに抜擢された訳だが、財務一筋などという職人気質は私の性に合っておらず、当時の森社長に直訴してアーツセンターを担当させてもらったのだが、それが本当に勉強になった。世の中には、単に生きるために働いているのではなく、好きなことややりたいことを仕事にしている人が、こんなにもたくさんいるのかと驚かされた。
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文=堀内勉 編集=石井節子

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