海外富裕層は「資産四分法」? 彼らがアートを買う理由

Untitled' by Jean-Michel Basquiat(Photo by Andrew Burton/Getty Images)

堀内勉氏。東大法学部からハーバード大学法律大学院に進み、日本興業銀行、ゴールドマン・サックス証券を経て森ビルCFOを務めた。バブル崩壊やリーマンショックをもサバイブした、金融と不動産の世界では知る人ぞ知る人物であると同時に、『読書大全』を著した読書家としても知られる。

「教養とは、知識の獲得だけを意味するのではなく、『どう生きるか?』という生の実践と不可分であり、人間の幸福を追求し、より善い生やより善い社会の実現を目指すためのものだ」という堀内氏が到達した「贅」の定義とは。また、世界の超一流の人物たちの「贅沢」とは。連載でご寄稿いただく。今回は、2回に分けて「アート」を考えるその前編。


45ポンドから4億5千万ドルへと高騰した「男性版モナ・リザ」


今、アート作品の価格が世界的に高騰している。日本ではまだそれほど加熱しているとは言えないが、世界の富裕層は競ってアート作品を買いあさっている。

それを象徴するのが、2017年11月にクリスティーズでレオナルド・ダ・ヴィンチの作品として競売に出され、絵画史上最高額の4億5031万2500ドル(約508億円)で落札された『サルバトール・ムンディ』である。

サルバトール・ムンディとは「救世主」を意味するラテン語である。1500年頃にダヴィンチがフランスのルイ12世のためにイエス・キリストを描いたものとされており、「男性版モナ・リザ」とも称される。その後、イギリスのチャールズ1世の手に渡り、1763年以降行方不明となっていたが、突如、一般家庭から「発見」された。

当初45ポンドという破格の値段で売りに出され、その後、美術史家、オークションハウス、有名コレクターなどを巻き込みながら、4億5千万ドルの高額絵画へと舞い上がっていく。

この絵は、2018年9月にルーブル美術館の国外初となる分館ルーブル・アブダビに展示される予定だったが、理由は一切発表されないまま展示が延期された。これが本当にダ・ヴィンチの絵なのかどうか、多くの美術専門家の間でも意見が割れている。

最終落札者は不明で、アラブ首長国連邦(UAE)の文化観光局が「取得した」とだけ説明していた。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、絵画を落札したのはサウジアラビアのバドル・ビン・アブドラ・ビン・ムハンマド王子で、同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子の代理だったと報じている。サルマン皇太子は、この報道について肯定も否定もしていないが、2021年4月、WSJは、『サルバトール・ムンディ』がサルマン皇太子が所有する高級ヨットの中にかかっていたことを報じている。

2021年11月26日に公開された『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』は、この『サルバドール・ムンディ』をめぐるドキュメンタリー映画だ。本作は、『サルバドール・ムンディ』を見つけた美術商、クリスティーズ、鑑定家、有名コレクターのアドバイザー、美術館関係者など、多くのインタビューから構成されており、これらを通じて、アート業界やアート市場における様々な問題点が浮かび上がってくる。
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文=堀内勉

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