こうした新たな視点の現代アートは、1917年にマルセル・デュシャンが発表した『泉(Fountain)』から始まった。これは、磁器の男性用小便器を横にして、「R.Mutt」という署名をしたものに「Fountain」というタイトルを付けただけのものである。賛否はあるものの、この作品は芸術の概念を根本から問い直すものであり、現代アートの出発点とされている。
1917年、マルセル・デュシャン作『泉(Fountain)』
ポップアートの大御所アンディ・ウォーホルが、1960年代に発表した『キャンベルのスープ缶』なども同様である。同じ図版を大量に生産できるシルクスクリーンの技法を用いた作品は、それまでの古典芸術とは大きく異なっており、そこにはアメリカの資本主義や大衆文化の非人間性、陳腐さ、空虚さが表現されていると言われる。
アンディ・ウォーホル作 『キャンベルのスープ缶』
こうしたアートは、もはや「美醜」という感性の世界を超え、我々現代人の持っている固定観念や価値観を揺さぶる作品という意味においてエポックメーキングであり、大きな価値(市場価値的な判断においては破格の価格)を持っている。
つまり、そこに作家が意図した明確なメッセージがあるか否かは別として、観る人や体験する人に、「一体これは何なのだろうか?」「この作家は何を訴えかけているのか?」と思わせる、ある意味で心を揺さぶり不安にさせる作品に価値があると考えられるようになっている。
従って、今日では投資としてアートを買うのであれば、どれだけ美しくても、既成概念の枠内にあるものや前例のあるものは避け、自分の感性による好き嫌いではなく、「新たな価値観を提示している作品や作家」を選択すべきということになる。
もちろん、その他にも、国際的なメガギャラリーが扱うものだとか、マーケティングという視点からのビジネス的な要素はたくさんあるのだが、大まかな方向性としてはこのようなものである。
(後編に続く)
堀内勉◎多摩大学社会的投資研究所教授。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了。日本興業銀行(現みずほ銀行)、ゴールドマン・サックス証券を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)。現在、ボルテックス100年企業戦略研究所所長、社会変革推進財団評議員、川村文化芸術振興財団理事、経済同友会幹事、書評サイト「HONZ」レビュアーなどを兼任。著書に『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(編著、日本評論社)、『読書大全』(日経BP社)他。