アルゴリズムが氏のアートと、氏に影響を与えた作品を学び、そこから自動かつ無限に作品を作るというユニークなプロジェクトだ。人間とテクノロジーが力を合わせた時、どのようなイノベーションが生み出されるのか。長谷川氏に聞いた。
長谷川雅彬氏
──長谷川さんの新しいプロジェクトでは、AIとアートを融合させていますよね。アートの世界にテクノロジーを用いるというムーブメントはいつから始まったのでしょうか。
長谷川雅彬氏(以下、長谷川):アートの世界でテクノロジーを使うこと自体は、ずっと続いている潮流です。これまでに、「自動運転の車に『止まれ』と『進め』の合図を同時に出したらどうなるか」を検証したJames BridleのAutonomous Trapや「SNSのいいね!機能を取り払ったらどうなるか」というBen GrosserのTwitter Demetricatorのようなプロジェクトがなされてきました。いずれも、今あるテクノロジーを別の視点から使ってみようというアプローチです。
一方、今回のプロジェクトは、テクノロジーを使えば人間のキャパシティを超えて創造できるのでは? というアイディアから生まれました。そもそも私がアートを始めたきっかけは、創造性への強い関心が起源となっています。一般的に、創造性にAIを絡めると、「AIに創造はできるか」というトピックに集結してしまうのですが、そのようなAI 対人間のような図式ではなく、2つの力を融合させてみようというアプローチです。
──具体的に、長谷川さんのプロジェクトはどのようなものなのでしょうか。
長谷川:この作品はAIを使ったアート作品で、僕について学習したAIが僕に代わって1枚ずつ抽象画(アブストラクトアート)を作り出し、それらをアニメーションでつないで、無限に作品がつくられていく様を提示しています。コンセプトは、可能性世界の提示です。アート作品といえば、過去に制作したものや出来上がったものを提示するのが一般的ですが、この作品は常に変化していて、よりダイナミックになっています。
──AIが学習して作品をつくり出しているということですね。
長谷川:その通りです。まずは、AIに「アブストラクトアートとは何か」を教える必要がありました。さらに、自分の作品として世に出すためには、ある程度いいものをつくってもらわなければ困るので、「良いアブストラクトアートとはどういうものか」も教えなければいけません。
AIは赤ちゃんと一緒で、善悪がないんですね。良いとも悪いとも判断しないので、自分自身がどういうアートを良いと思うか、何百回、何千回とフィードバックしながら教え込んでいきます。 過去に僕がつくった作品や僕にインスピレーションを与えた音楽など、表面的なスタイルではなく、僕のルーツとなる深い部分までも大量に学ばせました。