また、僕が新しい作品を作ったり、新しいインスピレーションを見つけたら、それらについても学習することが出来ます。テクノロジーというと機械的な印象をもたれるかもしれませんが、情熱が大切です。
──アルゴリズムは、どのようにしてつくったのでしょうか。
長谷川:これは、Style-GAN2というアルゴリズムをカスタマイズしています。今回僕は、ウクライナのAI業界からパートナーを探しました。30数社と話しましたが、未知のプロジェクトに「やってみたい」と言ってくれるか、技術力はあるか、イノベーションを起こすことに意欲的か、などを鑑みると、実際に悩んだのはわずか2社でした。
そもそも、アーティストがテクノロジーを使うには、知識面と予算面で大きな障壁があります。そのうえ、プログラマーとアーティストの思考プロセスは正反対で、プログラマーの思考プロセスがいろんな可能性を絞り込んでいく作業であるのに対し、アートの思考プロセスは可能性を拡げていく作業なんです。そのため、プログラマーとの協業は、面白くもあり難しくもありました。
──制作過程でもっともチャレンジングだったことは何ですか。
長谷川:AIと人間の理解の仕方やものの見方の違いを理解したうえで、何ができるかを思考することが非常にチャレンジングでした。
例えば、森の絵の上に三角形が描かれた画像があるとします。人間だったら、森の上に三角形があるとすぐにわかるのですが、AIには理解できません。なぜかというと、全体のイメージでパターンを覚えていく人間と異なり、AIはピクセルという色の点を1個ずつ分析しているからです。このように、AIにできることと人間にできることを明確に理解する作業が大変でした。
──人間やAIのように、全く違う思考性や見方をするもの同士が一緒になったときの新しい価値の創造に関してはどのように見ていますか。
長谷川:今回のプロジェクトを通して感じたのは、正確性や技術面において、人間はテクノロジーに太刀打ちできなくなっていくということです。絵を描くにしても、AIで全てできるのであれば、人間自身が手を動かす必要はなくなります。そうなると、何がしたいのか、何を意図するのか、どういう世界や人生を意図するのか、「意図」の重要性が高まると思います。
──価値観が多様化する時代において、特に利益追求主義の企業にとっては、意図のつくり方ってなんだっけ? とわからなくなってしまうことがよくあります。アート側にいる長谷川さんから見て、ヒントがあれば教えてください。
長谷川:企業の視点から見ると、できることはたくさんあっても、何をやったらいいかわからない状態に陥っているように感じます。その理由としては、極端に失敗が許容されないところが大きいのではないでしょうか。どうしても明確な利益が出ないとダメだという判定がされがちです。