例えば、欧米のバイヤーたちに、ルーブル美術館や大英博物館などの絵画修復に使用されている和紙が、実は岐阜県の「本美濃紙」であることを伝えると、途端に彼らの見る目は変わってくる。
日本の和紙のなかから、なぜ美濃和紙が一流美術館や博物館で使われ続けるのか。それは、1300年間余り、限りなく同じ工法で、同じ場所で生産され続けることに由来する、「変わらない質の担保がある」というのが美術館の修復担当者からの言葉であり、2014年に本美濃紙の手漉き技術がユネスコ無形文化遺産に登録されたのも同様の理由からだった。
そして、そのような魅力を語る地域の物語は、観光をも促すいちばんのフックにもなるということに気づいた。
実際に、私たちとのセールストークの後、数カ月後に、欧米からはるばる岐阜県まで訪れたバイヤーも多数いて、彼らとは商談だけでなく、美濃和紙職人の工房への案内をはじめ、美味しい地元の食事や温泉など県の観光案内もして、その後の長いつきあいにも至るという経験もした。
そこで私は思ったのだ。地域資源は、観光資源でもあるのだと。
その後、内外の見本市に出展する際には、必ず個人的に岐阜県の観光パンフレットなども持参するようになった。モノの販売の国際見本市は、日本でいえば経済産業省、JETRO(日本貿易振興機構)などの管轄で、観光庁やJNTO(日本政府観光局)などが担当する国際観光見本市とはまったく別物だということも後に知った。
しかし、私は当初から地場産品と観光は一緒にアピールするほうが良いのではと思っていた(そのことは国の担当者たちにも言い続けていた。そのせいかどうかはわからないが、最近は商品と観光のプロモーションを合同で行うこともあるようになったそうだ)。
さらに、そこでちょっとした地元の食べ物や飲み物をプロダクトとともに提供することで、より岐阜のモノづくりの良さを実感してもらえることも体験した。
これらの経験が、後に国内外への、観光と食とモノの三位一体的な私なりのプロモーション手法にも繋がり、地域資源の持続化のためには、観光資源化が有効であるという想いへと受け継がれていった。
そして、20年前のこの美濃和紙のプロモーションが、そもそも私が歩むことになるサステナブルツーリズムのはじまりでもあったのだ。(次回へ続く)
連載:サステナブルツーリズムへの歩み 〜岐阜から発信する未来の観光
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